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母は苦笑いする。華族令嬢は腹をくくって好きでもない殿方と結婚する。選択の余地はない。親の決めた相手に従う。私はどんな相手と結婚させられるのだろうか。恐ろしくて下を向いた。十七歳まで見つかるものだろうか。十九までに輿入れをしなければ、その後、お相手はなかなか見つかりにくいかもしれない。それはそれで恐ろしい。来年は私も女学校を卒業する。ほとんどの令嬢は輿入れが決まっての卒業。むろん、輿入れ先が決まらず卒業する女学生もいる。考えて辟易する私を見て母は、「まぁ」と、声を発した。
「貴女のお相手もそろそろ、決めますから。悪いようにはしないから、ご安心なさい」
何故か余裕の満面の笑みを浮かべた後で、話を変えた。
「それより、そのむね子嬢の夜会が近々あるのよ。招待を頂いたばかりよ」
「え? その話も聞いていませんわ」
所謂、婚約パーティだ。何故肝心なことを教えてくれなかったのだろう。それほどたった一瞬で、むね子嬢の虜にしてしまった中田さんは、罪な殿方である。
「そう。中田さんのことで上の空だったのでしょう。貴女もご学友なのだから、出席しないとダメよ。むね子様のお母さまからも、是非貴女も出席するように言われたのだから」「分かりました」
頷きながらも、むね子嬢に対する同情の心も、芽生えたから不思議なものだった。
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