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むね子嬢の婚約パーティ
一週間後。
黒い自家用車に乗り、むね子嬢の邸宅へ向かう。父は燕尾服、母は緑色のドレス姿だった。父の顔を見たのは久しぶりだ。最近は株取引所へ行ったり、別の伯爵様の家へ行ったり、他の夜会に顔を出したりで多忙だった。株のほうは少しずつ基幹産業が入ってきて、徐々に民間企業の株式が増えてきたのが面白いらしい。
「そう言えば、昭子もそろそろ学校へは、車での通学に切り替えた方がいいんじゃないかね」
父は伸ばし始めた口元の髭を触りながらそう言った。いつの間にか髪を切ったらしい。綺麗に整えられていた。
「でも伊藤さんはどうなさるの?」
車夫としてうちに入ってきた人だ。車の免許は持っていないだろう。すると「なーに」と父は陽気に笑う。
「次の仕事をちゃんと斡旋するから大丈夫だ」
「それは良かった。伊藤さんには随分、お世話になりましたもの」
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