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今度は彼女の婚約パーティもあることだろう。
「まぁ、でもおめでたい場ですしね」
私も同じく小さく笑いを浮かべる。むね子嬢はどうやら学友には好かれていないことが分かった。父と母は他の華族らと挨拶を交わし、社交の場の空気に溶け込んでいた。私はそれが苦手だった。
「ねぇ、むね子様、貴女の家の書生が気に入ったようだけど」
「そのようですわ」
この一週間、中田さんが人力車で送迎をしてくれた。車で通学している令嬢も窓の外から、中田さんを見かけてはうっとりしている姿もあった。それほど彼の容姿は際立った。
「まぁ、とても素敵な方ですものね」
伊沙子嬢は社交辞令的な口調だった。あまり中田さんには興味がなさそうだ。
「ほら、あちらをご覧になって」
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