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伊沙子嬢は可愛い目で促した。彼女の視線の先を追う。そこは美味しそうな料理が並べられているホールのほうだった。何人かが早速、立食式で食事をしている。
「え、中田さん……」
ギョッとして目を強張らせた。何故、庶民の中田さんがここにいるのだろう。彼は必死でローストビーフやコロッケにかぶりついている。その横で、むね子嬢が必死に話しかけていた。シュールな光景だった。中田さんは紋付き袴を着ていた。彼女のほうは淡いイエローの絹のドレスを纏い、胸元のレースと花柄の刺繍がまたお洒落だった。長い髪の毛をいつもと違う感じで緩めに結い、黄色のリボンをつけていた。
「ちょっとちょっと」
私はドレスを両手で軽く持ち上げ、テラスへ向かう。思わず突きたくなった。
「何故貴方がここにいるの?」
書生の中田さんのほうに話しかける。
「は?」
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