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「すみませんね。私は庶民なもので、こんなもの、普段お目にかかることは出来ません。初めて目にするものばかりで。貴女達はこんな美味しい物を毎日召し上がっておられるのですね。いやぁ、羨ましい」
そうして箸の速度を緩める中田さんに、私は告げた。
「一応、私達は箸の三センチの部分で食事をしなさいと言われておりますわ」
そう。上品に、ゆっくり食べることを私達は推奨されている。どこで誰が見ているか分からないからだ。
「中田さん、私と結婚なさったら、毎日こういうお料理が食べられますわよ」
莫大発言をするむね子嬢。かなり積極的すぎて、怖い。一瞬で恋に溺れるとこうなるのだろうか。私達華族令嬢は、そもそも恋などほとんど知らない。誰かに憧れを抱いていても叶わぬ恋だから胸の内でひっそり閉じて、静かに諦める。中田さんは、少し困って嘆息した。
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