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「そう。それに、貴女達は生きていく力がありますか?」
痛いところを中田さんは突いた。私達は三人で互いに顔を見合わせた。
「お姫様だからないでしょう。もしも、もしもですよ。華族令が排除されることがあったら、貴女達は路頭に迷うことでしょう。料理も出来ない。仕事もしたことがない。生きる術を知らない。そんなご令嬢を私なんかが、面倒見切れる訳がありません」
とてもきつい言い方だった。けれども正論だ。気持ちが沈む私を見て、伊沙子嬢が口をはさむ。
「確かに言っていることは、正しいこともあると思いますが、言い過ぎではありませんか。華族令が廃止だなんて」
少し、むね子嬢を庇う言い方だった。私は反論する余裕がなく、その場からそっと離れた。
(華族令が廃止……か)
今のところは全くそんな傾向はない。けれども時代は変わる。江戸幕府が終わりを告げ、政権が将軍から天皇になり、元武士達は『華族』と言われるようになった。地方に住んでいたお殿様方は、天皇のお力になるようにと、東京へ住むことを義務付けされた。
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