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「あそこの端にいる人よ」
静かに言う。私と伊沙子嬢は奥にある暖炉の側に立って、他の華族と談笑している紳士を発見した。その方も紋付き袴を着ていらっしゃった。年は貴族院になったばかりだと母から聞いた。と考えると、年は二十五だろう。背はあまり高くはない。顔立ちも凡人よりは少し劣る感じだ。
「まぁ……でも優しそうな人じゃないの。良いじゃない?」
むね子嬢を慰めるように発した私の横で、伊沙子嬢も大きくうんうん。と、頷く。
「ねぇ、もう仕方ないわ。諦めましょうよ。私達の使命は、親が決めた人と結婚して、跡継ぎを産むしかないのよ」
伊沙子嬢も自分に言い聞かせるよう、むね子嬢にも同じように言う。それには私も大きく賛同した。
「そうね。世継ぎを産むのが私達の役目だわ」
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