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私は、むね子嬢の肩をポンと叩く。もう、武士の家系に生まれたからには、それは『さだめ』であった。励まし合うような声で私達は意を決するように、言葉にする。
「本当におっしゃるとおりだわ。私達に恋なんて出来る訳ないものね」
今までに聞いたことがない、むね子嬢のか細い声。女学校で休み時間に高笑いしている声とは一変していた。
「まぁ。むね子様らしくありませんわ。堂々となさって。いつものように。高飛車にふるまうのよ。折角、公爵に格上げされるんだから。学校で何故ご自慢されなかったのかしら。私、お母さまから貴女の輿入れのことを聞くまで知りませんでしたもの」
伊沙子嬢の言葉には棘が少しあったが、それは同感だった。私と同じく、伊沙子嬢も知らなかったらしい。私達には恋は、麻薬。そして贅沢品だった。庶民より日常を贅沢に暮らしている筈だから、仕方がないという諦めもある。
「はい……諦めなければ。たった数日の私の独りよがりの恋でした。なかったことにします」
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