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新しい書生
大正十一年、四月、東京府。
満開の桜の花弁が、つやつやした青空を背景に散らつかせていた。更に風が吹くと、雪のように多く花弁が降ってくる。柔らかな空気。たんぽぽは道端に咲き誇り、スズメは心地よく鳴いていた。スペイン風邪の流行も、ようやく落ち着きつつあった。
私、川野昭子は女子学修館へ通う十六歳の女学生だ。この女学校は、華族令嬢が通う学校だった。帰り道、人力車の上から舞い散るピンクの花を眺めていた。道を行く人の視線が私のほうへ注目する。家のある小石川をカラカラと車輪が回りながら人力車は走る。世の中は自動車は普及し始めている。しかし、私は人力車が大好きで無理を言って女学校の送迎には、人力車を使用していた。しかし、雨の日は自動車で通学する。
「あら、川野家の伯爵令嬢だわ」
「あの家、ご長男がいらっしゃらないから、お妾さんが男のお子さんを産んだんですってね」
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