天使のティアドロップ

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その日の夜はとても静かだった。 風も無く、雲も無く、ただ窓から銀の月明かりが差し込んで部屋を明るく照らしていた。 ──だからこそ、その惨劇はあまりにも現実味の無い出来事であり、彼らが最期を迎えるには綺麗すぎる気がした。 屋敷の照明は抵抗に抵抗を重ねた結果壊れ、すべての明かりが消えてしまい真っ暗な部屋に差し込む月明かりが唯一その男の顔を確かめる術だった。 それでも充分過ぎる程に彼が眩しく照らされて見える。 彼女は、わたしもこのまま殺されるんだと思った。 一歩一歩近づく彼に、こんな風に『痛み』の解る人に殺されるなら悪くない人生だったのかもしれないと自然と笑みが零れる。 あまりにも不釣り合いな状況にまた彼は顔を顰めた。 それはそうだろう。今から殺されるというのに怯えることも無く、目の前の少女はただ微笑んでいるのだから。
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