二十歳を祝う会、現在

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二十歳を祝う会、現在

 講堂のロビーから外に吐き出された俺ら二十歳たちは、雪がちらついているというのにまだ帰らずそこここに漂っていた。俺の目が、ある一点で止まる。あの件以来あまり話すこともなくなり、中学からは別々になってしまったから、顔を見るのは小学校のとき以来だ。  記憶の中の晴斗が、俺と同じ分歳を重ねて立っている。俺に気付いた晴斗が人混みをかき分けてやって来た。 「冬馬、久しぶり」 「おう」  あの時はどうしても、佐倉のことをあれ以上聞くことはできなかった。今さらな気もするが、今なら聞けそうな気がする。  俺が迷っているうちに、晴斗が胸ポケットから一枚の写真を取り出し、俺によこした。 「これ、冬馬に」  あの、雪遊びした日の写真だった。  俺と冬馬が肩を組んでピースしている。確か先生が写真を撮ってくれていて、卒業式の朝、そのときの写真がたくさん貼りだされていた──。あれなら俺だって全部見たし、各々貼られた写真を分けて持って帰ったはず。なんで、それを今。俺の視線に気付いた晴斗が、苦笑いする。 「よぉ見て。銅像んとこ」 「……あ」  俺の指が邪魔で顔は写っていないけれど、銅像のわきに、一人の少女がいた。いつも同じ服を着ていたから、服だけで誰かわかる。  教室にいたはずなのに、どうしてそこに写ってるんだろう。どうして泥まじりの小さな雪だるまを、大切そうに抱えてるんだろう。  渡せなかったはずなのに、どうして。 「この写真……」 「写真貼ると手伝うとき、この写真だけこっそり抜いた。へへ、学級委員長特権」 「は?」 「俺その日、佐倉にフラれた。その写真見たら、理由はわかるやろ。俺だって悔しかったし色々フクザツやったわけよ。許せ」 「許せって、晴斗、嘘ついとったな!」  晴斗がイタズラな顔で笑って、俺の肩を小突いた。俺も小突き返す。  なんだよ。俺はずっと一人で、佐倉の思い出を抱えてきたっていうのに。  俺は目の前に降ってきた雪のひとひらを、手のひらにそっと受け止めた。 「晴斗、俺に言うとらんことあるやろ」 「冬馬こそ」 にらみ合い、どちらからともなく吹き出す。  雪は手のひらで溶け、雫となって、すべり落ちていった。 <了>
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