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上目遣いに見上げるケイトリンに微笑みかけながら、ノアは両手でその手を包み込む。
ノアよりひとまわり小さなケイトリンの手は直前まで氷水に浸けていたように冷たい。
「こんなに冷たくなって。可哀想に」
「ノア」
「掃除なんていくらだって俺が替わってやったのに。おまえときたらくそ真面目に……みんな適当に手を抜いてんだぞ、それを、どどうした」
上機嫌でケイトリンの手を撫で擦り、口づけんばかりに息を吹きかけていたノアだったが、間近で、ぽわ、と耳まで赤く染めたケイトリンに生唾を飲んだ。咄嗟に抱きつきかけたがなけなしの理性を総動員してようやく押し止める。
自分自身を褒め称えたいと思うノアだ。
「ななにしてんだケイトリン。可愛い過ぎだろ、俺が過ちが起きたらどうする気だ」
なんだよ過ちって。
自分でツッコミながら、こんな表情のケイトリンは絶対に他の誰にも見せられない。動揺しまくりつつも周囲を警戒しながらノアは伸ばした左手でケイトリンの頬に触れ、る寸前で止めた。ノアの右手はケイトリンの両手を握りしめて離さない。
(まずい絶対まずい今ケイトリンに触れたら、触れたら絶対抱きしめてき、きすして離さなくなる、じゃなくて抱きしめてキスしたくてたまらない)
なんならキスだけですまなくなる自信もある。
「なにしてって、ノアのせいじゃないか」
「お俺のせいってなにが……俺なんかしたか?」
「ノアが悪い」
「俺が?」
さっきから、ケイトリンはノアに捕らえられたままの手を取り戻そうともぞもぞしているが、ノアの力が強くて叶わないでいる。もちろんノアが離すつもりはない。
ぷうっ、と紅潮したままの頬をふくらましたケイトリンも可愛らしい。
本人はこれでも怒っているっぽいが、可愛いのでノアからすれば怒られている感はゼロだ。逆にご褒美感しかない。まだ昼食前のノアだがこのご褒美感だけで満腹だ。
(えーと?アレかな、さっきちらっと今度霜焼けが出来るなら耳たぶがいいなとか思って見てたのがバレたとか?いやでも俺の考えがケイトリンにバレるわけないだろうし……え?口に出してたかな俺そんなはずは、あ、もしかすると以心伝心?)
内心どぎまぎしながら、ケイトリンをじっと見つめる。精一杯平静を装おうが
ノアの心臓は軍楽隊もかくや、という大音量で絶賛演奏中である。
「………す、され…かと」
「え、と?」
ケイトリンの声は淡雪のように微かだった。ノア自身の鼓動の方がばくばくとよほどうるさい。
(あぁ俺の心臓うるさい、ケイトリンの声が聞こえないだろ。ちょっとは気をつかえ)
「ごめんケイトリン、よく聞こえなかった。も一回言ってくれる?」
「……」
ケイトリンは上目にノアを見上げる。ケイトリンの潤んだ瞳に映る自身が少々間抜け面で悲しい。
「……ケイトリン?」
「……ノアのぶぁか!ノアなんてだいきらい!」
「えっ!」
まさかの発言に硬直したノアからようやく手を取り戻したケイトリンはばたばたと走り去ってしまった。
(えっ!ノアなんてだいきらい、きらいって嫌いってこと?ノアが嫌いって、え、と?まさかオレ、ケイトリンに嫌われてんの?なんで?なんかした?)
渡り廊下にひとり残されたノアは後を追うことも出来ずに立ち尽くす。
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