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交渉成立した後、榊が「ところで」と尋ねた。
「研究をするなら八千日病患者の検体は必須だ。当然そちらで用意してあるんだろうね?」
「ええ、問題ありません」
そう言うと黒澤はおもむろに着ているワイシャツの胸元のボタンを外し始めた。
目のやり場に困りオドオドとする中野だったが、次の瞬間、今度は逆に黒澤の胸元に釘付けにならざるを得なかった。
そこにあったのは血の如き赤い線で浮き出た「30」の文字。
黒澤の命の期限を示す刻印に、中野はもう一度浮かれていた馬鹿な自分を責めた。
ああ。本当に、全部夢だったらどれだけ良かっただろう。
「検体は私自身よ。残り三十日、どうぞお好きに調べてください」
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