八千日病〜時の神の呪い〜

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「えっ……どういう? まさか、すでに博士と関係を……?」 「違うわよ。7990ということは、榊が八千日病に感染したのは十日前。その時、私はまだここに居ないでしょ?」  中野はもう一度あっと声を上げた。確かにそうだ。そして十日前ということは、榊は一人亜空間にこもり調査をしていたはずだ。 「もう分かったでしょ?」  全然分からないという顔をしていたのか、黒澤はハァと溜息を一つ吐いた後、丁寧に解説してくれた。  黒澤の時代から見て二七八年前。つまり、今から約二十二年後の未来。八千日病の症状で枯れ果て亡くなった最初の人物がなんと、榊博士だったらしい。  要するに榊こそ世界で最初の八千日病感染者だったのだ。 「言ったでしょ? 八千日病の別名は『時の神の呪い』。おそらくタイムマシン製作過程で感染したのね。時を操ろうなんて人間には出過ぎな真似をしたせいで、きっと神様が罰をお与えになったのよ」  榊の死を皮切りに同じような症状で亡くなる人間が相次いだ。そして彼らの死体にはことごとく「0」という数字が浮かび上がっていたという。  人の身体に刻まれた不可思議な数字と増え続ける怪死。その関連性が明らかになる頃には、八千日病ウイルスは取り返しがつかないほど世界中に広まっていた。 「この男、奥さん子供がいるっていうのに、そこら中でウイルスをばら撒いていたのよ。ほんとどうしようもない男でしょ」 「そんな……」 「だから私が派遣された。タイムマシン完成直後、榊が誰かと性的接触を持つ前にウイルスごと彼を消せば、人類が八千日病で滅ぶ未来を変えることができるから」 「そう、だったんですね」 「一対一だったらすぐにでも殺してやるつもりだったのに、そばにいつもあなたがいたせいで無駄に遠回りしちゃったわ」  そう言って黒澤は肩をすくめた。  難しい話だったが、要するに「世界を守ること」が使命だという彼女の言葉は嘘ではなかったのだ。それだけで十分満足だった。  中野が頬を緩めると、黒澤もまたフッと相好を崩し、言った。 「さて。死ななきゃいけない人間は、もう一人」
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