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09 レクリエーション
高架下を歩いて行くとやがて小さな看板が立っているのが目に入り、その看板の隣で手を振る四季の姿を捉えた。
前に見たリュック姿ではなく、財布と携帯を直持ちという軽装を不思議に思って観察していると「友達の家から来た」と彼自身の口から説明がなされた。
「………べつに何処から来ても良いですけど」
「冬花さんが気になる顔してたから、言っただけ」
「気になってませんし、貴方の私生活なんて興味ないです」
「キツイこと言うねー凹んじゃうよ」
一ミリも凹んでいない笑顔を見せて、四季は地下へ続く階段を降り始めた。ムンッと濃厚なスパイスの香りが鼻を突く。
うっかり滑り落ちて前を歩く彼に激突しないように細心の注意を払いつつ、階段を踏む。店内はインドカレーにありがちな派手な彩色や賑やかな音楽とは無縁な、落ち着いた空間が広がっていた。
今まで見てきたどんなカレー屋さんとも異なる。
壁には異国の地図や写真が少し並べられている程度で、言われなければここがインドカレー専門店だとは分からないだろう。目を凝らしても象の置物なんかは見当たらない。
「ここね、前から来てみたかったんだ」
席に座りながらそう言うから、私は少し驚いた。
「そういうお店はお友達と来てください。私は貴方の勉強を手伝いに来ただけで、遊びに来たわけじゃないんです」
「良いじゃん。カレー食べながら勉強すれば」
「そんな片手間な、」
しかしその時、店員らしき異国の香りがするお兄さんが水の入ったグラスを手に机に近付いて来たので、とりあえず私は黙り込む。
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