70 有難い話

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「間宮さん?」 「………あ、ごめんなさい。考え事しちゃって」 「なによもう。大学が休みになってから学生たちを見ることも減ったし、例のイケメンくんも全然図書館に来ないわよね。休み中に開館してること知らないのかしら?」  開館日のカレンダー渡しとけば良かったわ、と残念がる唐沢を見ながら無難にウーロンハイを頼んだ。汗ばむ身体を落ち着かせるために深呼吸をする。  夏休みに入ってから一度も四季を見ていない。  大学の休みは長いから、このままいけば裕に二ヶ月は彼に会うことはないだろう。最後の別れ方があんな感じだったから、会わない方が気持ちは楽ではある。  赤嶺の話では四季は中東を旅行中らしい。  何故にヨーロッパやアジア諸国ではなく中東なのか。本人にそんな気安く質問できる間柄でももうないし、浮かんだ疑問は答えを得ることなく消えそうだ。 「へい、ウーロンハイ!」  カウンターに勢い良く置かれたジョッキを受け取って、唐沢と乾杯を交わす。  小さな店内に映ったテレビはどこかの国の朝ごはんを紹介している。頭にターバンを巻いた元気なお母さんが家族で食べる食事が健康の秘訣だと語る様子を眺めた。  それは確かにそうかもしれない。  四季が居なくなってからというもの、どんなに手の込んだものを作ってもどこか虚しい。手抜きの鍋でも三日目に入って飽きたカレーでも、彼は笑顔で食べてくれた。それを有難いことだったと気付くのは、今更の話。
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