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01 図書館の女
その男は、春のような匂いがした。
柔らかく降り注ぐ太陽の日差しみたいに皆に平等で、手を伸ばせばいつでもそこに居てくれて、だから私は勘違いしてしまう。容易に自惚れてしまう。
夏の海のように広い心で受け止めてくれるし、どこにでも居るつまらない人間ではなく、秋の芸術家まがいの高尚なセンスまで持っている。彼が紡ぐ言葉は、いつも私の心を翻弄した。
二階堂四季は特別。
誰にも溶かせなかった、冬の雪をすっかり溶かし切って、枯れ果てた大地に花まで咲かせてしまうのだ。
そうして彼は、呆気なく私の腕を擦り抜けて次の場所へ向かう。
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