06 赤嶺伊月

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06 赤嶺伊月

 赤嶺伊月(あかみねいつき)とは。  我が堂林大学に勤務する教員だ。三十代後半という教授陣の中では若手に分類される年齢に加えて、甘いマスク、国際関係を専門とする故に三カ国語を流暢に操るというスキルに惹かれる女生徒は少なくない。  そして、それはまた司書や学生課の職員も同様で。 「………えっと……なんて?」 「冬花さん、赤嶺先生のこと好きだよね?」 「あはっ…!何言ってるの。適当なこと言ってると怒りますよ。大人を揶揄うのもいい加減にしてください」 「冬花さんが読んだってアップしてる本、ほとんどが海外旅行とか食に関するエッセイだよね。でも数冊、大して有名でもない中東諸国の政治情勢に関する本なんかが紛れてる」 「……っ…勉強のために!」 「勉強のためにわざわざ講演会も行ったの?こんな名前で先生のことフォローしたら身バレしちゃうよ」  私はもう言葉が出なかった。  黙りこくる私の前で四季はフッと息を吐く。  勝手に人のプライベート覗き見て、過去の投稿まで遡って、秘めていた恋愛感情まで突っついてくる無礼な男。私の方が社会人経験もあるし、常識もあると思う。それなのに何も言い返せない。それは、なぜなら。
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