06 赤嶺伊月

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「赤嶺先生、結婚してるよね?」 「───!」 「叶わない恋ってやつだ。だからこっそり気持ち吐き出してたってわけ?冬花さん、可哀想に」 「なにが言いたいの……!?貴方、こんなとこに私を呼び出してどういうつもり?お金でも欲しいの…!?」 「静かにね。みんなビックリしちゃうから」 「………っ」  悔しい。悔しい、すごく悔しい。  こんなクソガキに自分の恋心を暴かれて、それを気の毒に思われるなんて最悪だ。誰にも迷惑を掛けないように黙っていたのに。こっそり好きでいて、こっそり気持ちを吐き出すだけだったのに。  なんで、それさえ許されないの?  べつに家庭を壊すとか先生に気持ちを伝えるなんて考えていなかった。ただ、私にとっては推しのアイドルのような存在で、静かに陰ながら見ていたかった。気持ち悪いって思われないように、弁えていたつもりだった。 「お金なんて要らないよ。俺ね、今年から堂林に転入してきたんだ。大学のアカウント見たなら知ってるかな?」  私は下を向いたままで大人しく頷く。  身体は強張って、何を言われるのか緊張していた。 「うん、知ってるなら話早い。三年からの転入って結構大変でね。今までイギリス居たから尚更授業ついてくのもう一杯一杯なわけ」 「………?」 「そこでさ、冬花さんに勉強手伝ってほしいの。助手って言うのかな?」 「助手……って?」 「俺の専攻は心理学。中でも恋愛心理学をテーマにして卒論書こうと思ってるから、一緒に勉強しようよ」 「は……?」  冗談みたいな誘いに言葉が出て来ない。  というか、冗談であってほしい。
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