06 赤嶺伊月

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   呆けたままの私の手に伸びて来た四季の手が重なる。  跳ねた心臓の音が聞こえるのではないかと思って、咄嗟に手を引っ込めた。少し驚いた顔をした後で「警戒して当然だよね」と笑って、四季は立ち上がる。その手に丸まった伝票が握られているのを見て私は慌てた。 「待って、ここは私が…!」 「良いよ。五百円のコーヒーで協力的な助っ人が手に入るなら安いもんだし。今日はありがとうね」 「まだ、良いなんて一言も、」  もごもごと反論する私の前で四季は会計を済ませ、ポケットから本日二枚目のメモを取り出して渡した。そこには携帯の番号が書かれている。 「毎週金曜日、仕事終わったら俺に電話して。場所はどこでも良いけど、人に見られたくないなら家でも良いよ」  何から否定すれば良いのか分からず、相変わらず呆然と立ち尽くす私にひらひら手を振って四季は電車の方へ歩いて行く。階段を降りる手前で振り返って、何を言うのかと思えば「ポエムの投稿は笑っちゃった」と言うので絶句する。  そのまま永遠に環状線を回り続けてくれ。  そして二度と私の前に現れないで!
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