07 カウンター

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「すみません、返却良いですか?」 「はぁい。ここに置いておいてください」  顔を上げずに告げると心配そうな声が降って来た。 「あ…実は一週間ほど過ぎててね。ごめん、大丈夫かな?」 「は……あ、赤嶺先生…!」  そこに立っていたのは赤嶺伊月ご本人。  学会にでも行っていたのか最近顔を見ないと思っていたけど、まさか今日ご尊顔を拝めるとは。私は指先が震えないよいに机の下に引っ込めながら「お久しぶりです」と言い添えた。 「久しぶりだね。間宮さん、ちゃんと食べてる?」 「もうすごく…食べてます!もりもりです!」 「そう?なんだか元気ない気がして」  一度挨拶を交わしただけで、こんなただの司書の名前まで覚えてくれて相変わらずの神対応。漏れ出る大人の色気に当てられて顔が赤くなりそうだ。  学内の人気は本当に凄まじいもので、今こうやって先生がカウンターを訪れるだけで周辺に女子生徒の割合が増えた気がする。  ほうっと息を吐きながら、赤嶺の右手にいつも付けている指輪がないことに気付いた。忘れたのだろうか?  でもそんなことをいちいち指摘すると既婚者狙いの身の程知らずであることをお知らせするようなものなので、私は黙って「次からは期限に気を付けてくださいね」と無難な言葉を送るにとどまった。  今日もやっぱり推しは素敵で。  こうして陰ながら見守ることが幸せだったのに。
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