01 図書館の女

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「間宮さん、この前の合コンどうだったの?」  ガラガラーッと回転椅子を押してこちらに向かって来たのは五つ上の先輩の唐沢智子(からさわともこ)。赤いフレームの眼鏡に、長い黒髪を後ろで一つに束ねた、通称「歩く蔵書検索機」。どんな本でも、それこそ四年に一度しか貸し出されないような稀有な本でも、彼女の手に掛かればものの五分で見つけ出されるらしい。そこまで行くともう怖いのだけど。 「どうもこうもないです。途中で帰りました」 「はぁ?なんで?」 「お腹が痛くなったんです。我慢しようと思ったんですけど、幹事の子が帰って良いって」 「幹事ってあの、友達だっていう子でしょう?」 「はい。小学校からの友人です」  信じられないといった顔で智子は大袈裟に嘆く。  彼女が言う“合コン”とは、先週末に開催された私の友人発信の男女合同コンパのことだ。大橋流美(おおはしるみ)という私の友人が幹事となって、男女五人ずつで集まった。  総勢十人ともなると結構賑やかな会となり、流美の友人は大企業の受付などで勤める美人揃いだったため、男性陣も鼻の下を伸ばして嬉しそうにしていた。  そんな中、私は腹痛に襲われたのだ。  理由は明白。おそらく朝方食べて来たおはぎに当たったに違いない。買ったのがいつか思い出せないにも関わらず、もったいない精神を発揮して口に押し込んだ今朝の自分を恨んでも、時はすでに遅し。  お手洗いに頻繁に抜ける私を気遣って流美は「先に帰って良いよ」と言ってくれた。私はありがたくその提案に乗ったという話で。
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