10 おすそわけ

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「うわー冬花さんのバターチキンも美味しそう」 「二階堂くんは何にしたの?」 「俺ね、ダルカレー」 「ダルってなんだっけ?豆?」 「そうそう。でもやっぱり肉ほしかったなぁ。冬花さんのチキンちょっとちょうだい」  スプーンを渡しながらそんなことを言うから考えるより先に「嫌ですけど」と答えた。友人ならまだしも、会うのが二回目の男とカレーを分け合いたくない。四季は目を丸くしてブーイングを飛ばす。 「良いじゃん。一個で良いからさ」 「嫌よ。私が風邪菌でも持ってたらどうするの?」 「その菌ごと貰うよ」  サラッと答えてへらりと笑うから返事に詰まった。  顔面偏差値が高い男は無言でも一定の攻撃力を持っているのに、こうして相手が勘違いするような言葉を口走るとその効果は半端ない。バリアを張っていたつもりだけど、うっかり少し喰らってしまった。 「冗談止めてよ。私は貴方の風邪なんてお断り」 「ははっ、冷たいなぁ」  しかし食事中ずっと肉を狙われても困るので、とりあえず口を付ける前に肉を取り出して四季の皿に移した。  無邪気に喜ぶ男を観察する。  弟の穂高の方がまだいくらか大人びているんじゃないか。そりゃあまあ社会人経験の差なのかもしれないけど。三つ年下の弟は社会人歴二年目のわりにもうすでにバリバリ働く大人のオーラを纏っている。私にはないその空気はおそらく、仕事に取り組む意識の差なのだろう。
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