01 図書館の女

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「帰るかねぇ、普通」 「見知らぬ男女の前で下痢する方が地獄ですよ」 「そりゃあまぁ……そうだけど」  お先です、と声を掛けて私は立ち上がった。  今日はゆっくり行きつけのカフェで夕食を食べて、映画のレイトショーを観て帰る予定なのだ。世はまさに華金。労働者として私も浮かれないわけにはいかないから、今日ぐらいはお酒でも買って帰ろう。  映画からのお家韓流ドラマ鑑賞を決め込んだら、泥みたいに眠って、明日は昼まで眠る。うん、最高。 「あー、間宮さん!」 「はい?」 「大学のSNS見た?最近編入してきた帰国子女のイケメンくんをインフルエンサーみたいに使って、来年の受験者増やす作戦に出たっぽい」 「………相変わらずふざけてますね」  堂林大学附属図書館。  東京郊外に建つ中堅私立大学の敷地内に設けられたこの図書館で私は司書として働いている。本は好きだし図書館も好き、という安直な理由で選んだ仕事だけど、なかなか仕事は楽しい。  しかしながら、流行りものに乗っかるタチな我が大学は、時折頭が痛くなるような突拍子もないことをする。  だけどまぁ、そんなのは学生でもない私には関係ないし、本音を言えばどうでも良かった。私はただ自分の穏やかな日常が守られればどうだって良い。三食と寝床が維持できれば、あとのことは何とでも。  そう、思っていた。
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