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03 アンテナ
翌朝、目覚めると不在着信の通知が来ていた。
寝惚けた頭でテレビを付けるともう十時過ぎ。
遅過ぎる朝ごはんを食べるか迷いながら、もう一度寝返りを打つ。そうして再びダラダラと時間を過ごしていたが、握りしめたままの携帯が震え出したので仕方なく画面を見ると弟からの着信だった。
「………はぁい」
『姉ちゃんまだ寝てたの?マジで終わってる』
「こちとら休日に予定もない暇人なもんでね。何の用?」
『えー嘘でしょう?今日遊ぶ約束したじゃん』
「はれ……?」
弟の穂高はどこか人混みに居るのか、話す後ろでザワザワと人の声が聞こえる。
記憶を辿ってトーク画面をスクロールしていくと最後の会話では自分が「了解」と送って終わっていた。その上にはどうやら繁華街に位置する駅で待ち合わせを決めた内容の遣り取りがある。完全に失念。
「はぁーごめん、本当に忘れてたわ。もう着いてる?」
『うん。でも、まぁ良いよ。適当に時間潰してるから来れるときに来て。本屋とか見て待ってる』
「助かる!ありがとうね」
我が弟ながらなんとよく出来た男。
私は小さかった弟の成長に感動しつつ、顔を洗って歯を磨き、手早く化粧を済ませる。本当はゆっくりコーヒーの一杯でも飲みたいけれど、そんな余裕はない。
私が他人の誇れることの一つに「化粧の速さ」があって、これは手抜きと言われればそれまでなのだけど、ものの五分あれば眉毛まで完成させることが出来た。
(あぁ、イヤリングが片方ない……!)
なぜイヤリングや指輪といった小物はいつの間にやら姿を消すのか。なぜ自動運転する車が開発されても物の紛失を防止するための装置は世に生まれないのか。
そもそも失くすなってこと?
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