04 呼び出し状

2/2
前へ
/155ページ
次へ
 残された二人の間に変な空気が流れる。  カウンターを挟んで立つ男を見上げてみた。  まったく身に覚えはないものの、仕事だから対応しなければいけない。取り寄せか何かを頼んだけれど、どの司書に依頼したか忘れてしまったのだろうと推測した。 「あの…学生証を出してもらっても良いですか?海外文献の取り寄せ?それとも国内?」 「学生証ですね、ちょっと待ってください」  背負ったリュックを下ろしてガサゴソと中を漁ると、男は財布から学生用に配布されている識別用のカードを取り出す。「二階堂四季(にかいどうしき)」と書かれた名前が目に入った。 「二階堂くんね、番号で検索してみます」 「あ、これも渡しておきますね」 「………?」  差し出されたのは小さなメモ用紙。  手のひらに収まる白い紙の上に並んだ言葉を見て絶句した。 「え?なにこれ、」 「学生証返してもらって良いですか?」  放心する私の手からカードを取り上げると、ニコリと笑顔を見せる。私はただその綺麗な顔を見上げるだけで、開いた口からはなかなか言葉が出て来ない。  空きコマの時間を潰す学生や、課題を済ませようと集団で立ち寄る男女の軍団がたむろする昼下がりの図書館。私にしか聞こえない声の大きさで、二階堂四季は別れの挨拶を告げた。 「また会いましょうね、冬花(とうか)さん」  返事なんて返せないままで去って行く背中を見つめる。  混乱する頭を落ち着かせようと、手に持ったメモを見た。  白い紙には綺麗な字で二行の文章が書かれていた。一行目には見慣れた私のアカウント名、そして二行目には今日の日付と共に時間を表す数字が続き、隣には大学から四駅ほど離れた場所にある喫茶店の名前。  それは、二階堂四季からの呼び出し状だった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加