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「お兄ちゃーん! 起きて!!」
揺さぶられ、僕はゆっくり目を開ける。
「……は?」
すると一〇歳にも満たない着物姿の少年と少女が倒れている僕を囲み、覗き込んでいた。
「あ、起きた!」
「大丈夫?」
上体を起こし、辺りの景色をみた僕は絶句する。
地平線の向こう、いや終わりがあるのだろうか? 青空の下、どこまでも続く真っ白な花畑が、そこには広がっていたからだ。
ひとまず起き上がろう。そう思って立ち上がるが、ふらついて尻餅をついてしまった。
予想以上に、長く眠っていたようだ。体が上手く動かない。
そんな僕を見かねて、子供の一人である少年が手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとう」
僕がその少年の手を取り、互いの素肌が触れあう。
「──え?」
僕は思わず戸惑いの声を上げ、手をとっさに離す。少年の手は氷のような、いっそ痛みさえ感じるような冷たさだったからだ。
だが自分以上に戸惑っていたのは、僕の手に触れた相手の方だった。
「あぁあああっ!」
少年の手は酷い火傷のように赤く腫れ、水ぶくれすらできたからだ。
「な、何で? 僕は触っただけなのに」
「痛い! 痛いよぉ」
「そんな、どうしたら」
もう一人の少女も僕と同様に、何が起きたのかわからないようだ。そのため二人揃って、オロオロするしかない。その間にも少年は痛みからうずくまり、泣いている。
そんな少年に触発されたのか、混乱のためか、同じく泣き始めた少女が叫ぶ。
「助けて! 昊天様!」
「──これは一体、何事かな?」
スゥっと、空から舞い降りるようにその人物は現れた。
年は二〇半ばほどで着物を着ており、腰まで伸びる月白色の髪。顔立ちは中性的だが、先ほどの声から男性だろう。
そしてその美貌のなかでも一際目を引くのは、天藍色の瞳。どこまでも澄み切った青空を切り取ったような目だった。
「これは、そなたの仕業か?」
「その……僕があの子の手に触ったら、急に火傷みたいになって」
「なるほど」
昊天様はしゃがむと、泣き続ける少年の手を取り、息を吹きかける。すると少年の手の腫れは、みるみると引いていき治った。
「これでもう大丈夫だ」
「ありがとう! 昊天様!!」
痛みもなくなったのだろう。少年はニパッと笑うと、昊天様に礼を言った。
立ち上がった昊天様は、僕の前に立ち見下ろす。かなりの長身だ。
それゆえにかなりの圧を感じる。いや圧というよりも、神々しさからの畏怖?
「少年よ。驚かせてすまない」
「……怒らないんですか?」
「わざとではないのに、何故怒る? まぁ、次からは気を付けてほしいがな」
「ここは、どこですか? 天国?」
「あの世でもこの世でもない──境の世界で『境界』だ。生者が来るのは、久々だがな」
「え?」
「案内しながら、説明しよう。名は?」
「……暁山星斗」
「『星斗』か、ついてこい」
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