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先ほどの少年少女に手を振って別れを告げた僕は、昊天様の後に続いた。咲いている花を踏まぬよう、花畑の間にある道を進む。
「……あの」
「星斗はここに咲いている花は何だと思う?」
「え? ただの白い花じゃないんですか?」
「なら触れてみるといい」
言葉の意味がわからないまま、僕は近くに咲いていた牡丹のような白い花に触れる。
すると花は溶けて、ただの水に変わってしまった。
「ここに咲いている花はすべて『雪』。育てて空から降らし、大地に恵みの祝福を送るのが境界での役割の一つなのだ」
「これが? でも雪はこんな花の形をしてなんか」
「雪は異名で『天花』や『六花』、『瑞花』とも言う……その証拠に雪の結晶は、まるで花のような形をしていただろう?」
そう言われて僕は昔、コートに着いて溶けずにいた雪片のことを思い返す。
六方向に扇状、樹枝状に広がった雪の結晶は、確かに六枚の花弁を持つ花のようかもしれない。
「まぁ、大地に積もるころにはだいぶ溶けて、小さな結晶になってしまうが」
僕はここであることに気づいた。
先ほど子供の手が火傷したこと。昊天様が僕を「生者」といったこと。そしてここの花に触れると、溶けたこと。
「もしかして、この境界では僕の体温は高すぎる? ──僕が生者だから」
「物分かりがいいようで助かる」
「僕は雪山で倒れて死んだんじゃ……」
「いや、まだ生きている。でも死に片足を入れているから、ここにいるのだが」
「じゃあ、あの子供たちは?」
「死者だ」
「でも、じゃあどうしてあの世や天国じゃなくて境界に?」
「それはお前も、あの童たちも『訳あり』だからだ」
昊天様は煙に巻くような回答をし、それ以上教えてくれなかった。
「訳あり」とはどういうことだろうか?
「僕はどうすれば……」
「どちらにせよ、『働かざる者食うべからず』と言う。ここにいる以上は働いてもらうぞ」
「でも僕は花や子供たちに触れることは」
「素手で触れなければいい。あとで、手袋でもやろう」
「……はぁ」
「しっかりと働くように。さすれば、答えも見えてくるだろう」
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