迷い子たちの花畑

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 僕と昊天様は、舞台に並んで腰かける。  純白の花々が咲きほこる花畑を見つめつつ、昊天様は話し始めた。 「星斗よ。あの世、天国に行くのには何が必要だと思う?」 「死んだら皆、自動的に行くんじゃないの? あ、でも地獄もあるから……生前に罪を犯したか、そうじゃないか?」 「では死後も現世に残る幽霊と、天国に行く者との違いは何だ?」 「……わからない」 「答えは自身の死を受け入れられるか、否かだ。受け入れられず未練がある者が、現世でさまよう霊となる」 「なるほど」 「では受け入れることなく、未練もない者はどうなると思う?」 「……そんな人がいるんですか?」 「あぁ、いるとも。自分が親から生を受けたこと、物心がつく前に『間引く』という名目で殺された赤子たちが」  そこで僕の中に、一つの答えが出た。だが、それは恐ろしさで身震いしそうな内容で。 「じゃあ自分が親から生まれたことを知らず、未練すら持つ前に死んだ赤ん坊がたどり着くのが、現世でも天国でもない──この『境界』にいる子供たちだっていうんですか」 「そうだ」  あんな無邪気に笑う彼らが、生まれてすぐに親の都合で殺されたなんて。  でも、これで疑問に思っていたことが全て解決するのも事実。    彼らに名前がないのは?  ──名づける前に、殺されたから。    桜が「親」という言葉に過剰反応したのは?  ──親という存在を知らないから。いや自分を殺したのは「親」だと感覚的には、わかっているのかもしれない。 「赤子のままでは、何もできないからな。一〇歳ぐらいまでは成長させるが、そこまでだ」 「なら、何で僕は『境界』にいるんですか?」  以前、昊天様は僕や子供たちが境界にいるのは、「訳あり」だからと言っていた。子供たちの訳はわかった。  では、僕は? 「親に見捨てられたお前が、自身を間引こうとしたからだ。死のうとして雪山に向かったことなど、わかっている」 「……お見通しなんですね」 「星斗はどうしたい?」 「え?」 「この境界に居られるのは、子供のみだ。もうすぐ成人するお前をこのまま置くことはできない」 「成人って、僕はまだ一四歳で」 「『元服』を知らぬのか? 古くから子供は一五歳で大人になるのだ」  クリスマスにここに来て、僕の誕生日は一月。何日経ったかわからないが、昊天様の言葉からもうすぐ一五歳の誕生日が来るのだろう。 「お前が死なずにいるのは、お前の生を祈っている者がいるからだ」 「お母さん?」 「いや、違う。見せてやろう」  昊天様が僕の頭を引き寄せ、互いの額を合わせる。すると、僕の脳内にとある景色が流れた。  そこには病室のベッドで昏々と眠る自分。そしてそんな僕の手を握る祖父母の姿だった。 「雪山に行く前に、この者たちに文を送っただろう?」  確かに送った。「メリークリスマス! 暖かくして元気に過ごしてね。今まで、ありがとう」と。  それを聞いた昊天様は、呆れた顔をして言った。 「それはもはや遺書ではないか。そんな文が届いたら、駆けつけるだろうよ」 「……心配してくれたんだ」 「しかし死の淵から還ったところでどうだ? また自分を捨てた親の元で暮らすことになる。それだったら、ここで永遠に暮らせばいい」  ジッと昊天様が、天藍色の瞳で僕を見つめてくる。 「星斗がここで暮らすというのであれば、生きていた頃の辛い思い出は消してやる。必要のないものだからな」  死ぬために向かった雪山で、確かに僕は願った。「このまま思考も感情も真っ白に塗りつぶしてほしい」と。  なら、ここで暮らすのもいいのかもしれない。 「昊天様、僕の記憶を消し──」
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