迷い子たちの花畑

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   僕が中学校から家に帰ると、テーブルの上には千円札が一枚だけ置かれていた。母は「女」となって恋人のところにでも行ったのだろう。  真冬なので暖房をつけたいところだが電気代がかかるので、おいそれと付けることはできない。次に母が帰って来るのはいつか、お金がいくら置かれるのか、わからないからだ。  室内なのに、吐く息は白い。僕は学校から帰って来た格好のまま、スマホでネットニュースを見る。  東京の方では初雪が降り、数年ぶりのホワイトクリスマスになったと報じていた。  ──あぁ、そうか。今日はクリスマスだった。  ここ一帯は豪雪地帯なので東京のようにはいかないだろうが、他の家では暖房の利いた暖かい家で、豪華なディナーの用意をしているはずだ。  母もきっと男と一緒に楽しい夜を過ごすのだろう。僕より愛する相手の元で。  三年前に父が死んでから、母は変わった。夫を亡くした心の穴を埋めるように、遊び歩くようになって。  僕では、その穴を埋めるには不十分だったのだろうか? だったら。 「……何で僕を産んだのさ。お母さん」  僕は千円札を握りしめると、家を飛び出した。  ザクッ、ザクッ。  暮雪が降るなか、雪を踏みしめる音が僕の足元で鳴る。僕は郵便局ではがきと切手を買うと、東京の方に住む大好きな祖父母にメッセージを書く。  そして郵便局の前にあるポストに投函し、僕は山に向かってふらふらと歩き始めた。除雪されていないために、深雪に足を取られる。寒いし、冷たいし。 「さみしいよ」  山中で疲れた僕は、そのまま仰向けに倒れこむ。「ボフッ」という音がして、雪に包み込まれる。  倒れた僕の上に、無情にも雪は降っていく。  溶けた雪が服を濡らし、冷たさとともに気持ち悪さも感じるが、もうどうでもいい。  ──あぁ、このまま思考も感情も真っ白に塗りつぶしてほしい。  そして僕の意識は暗転した。
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