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「健。起きてよ」
彩月の声がする。目を開けると心配そうな彼女の顔がほっとしたように笑いかけた。
「凍死するよ。ばか」
「…おかえり」
寝ぼけた俺は、ずれた返事をして盛大に伸びをした。
「酔ってるの?」
「少しね。寒っ」
体温が奪われたせいか急に寒さを感じて、俺は震えだした。歯の根が合わずカチカチと音が鳴る。
「ほらあ。何で中に入らないの。鍵あるでしょ」
「家に帰って来て、シカトしてる奴がぬくぬくしてたらムカつくだろ」
「ふふっ」
彩月が鍵を開けながら笑いだした。
「…何だよ」
「あたしたちって似た者同士だね」
「何を今さら」
「あたしもね、健の家の前で待ってたの。雪が降ってこの寒い中」
「…どのくらい」
「2時間くらいかな。寒くてバカバカしくなって帰ってきたとこ」
薄くメイクはしてるけど、冷えたせいなのか頬が青白い。思わず指先で触れると氷みたいに冷たくて、彩月は首をすくめた。
「冷たいよ」
「…彩月の方が冷たい」
きっと今の俺みたいに震えながら待ってたんだろう。愛おしさがこみ上げた。
「ごめんな」
絶対先に言うまいと決めていた言葉が、ぽろっとこぼれた。彩月はかぶりを振って微笑んだ。
「あたしも、ごめん。意地張って」
俺は彩月を抱きしめた。
ふわっと彼女の香水が鼻をくすぐり、柔らかな体温が伝わって来た。寒さは変わらないのに、胸の辺りがじんわりと温かくなる。
こいつを 手離したくない
こらえきれなくて彼女にキスをした。重ねた唇は冷たかったが、触れ合ったふたりの気持ちはとても熱い。
「…続きは中でしようよ」
さっきより少しだけ頬を上気させて彩月が囁く。その顔を見て、急に伝えたくなった。
「彩月。俺とパリに行かね?」
「なにそれ。旅行ってこと?」
おかしそうに笑う彼女に安堵を覚えた。
きっと俺はこいつと一緒なら大丈夫だ。どこへでも行けるし、何でも出来る気がする。
「違くて。一緒に住むって話」
驚いて目を丸くする表情が可愛くて、どうやって説得しようかわくわくしながら、俺はまた彩月にキスをした。
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