冷たい指先

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バレンタインデーの直前に彼女と喧嘩になった。 『あたしのことなんて、何も考えてくれないんでしょ! もう(たける)なんて知らないっ』 売り言葉に買い言葉の応酬だった。 もともと彩月(さつき)ははっきりしている方だが、裏表がないから一緒にいて気が楽だった。 会社ではその姉御肌が頼りにされて、後輩や同期には心強い存在で通っている。仕事も任されて結構充実しているように見えた。 だから初めは俺も、いつもの喧嘩だとタカを(くく)っていたのだが。 メッセージは未読スルー。 電話は着信拒否。 会社に電話しても「外出中」の一点張り。 仕方なく家に行けば居留守を使われ、様子を見に来た管理人に危うく警察に通報されそうになる始末だ。 『健なんて知らない』 今まで何度もぶつけられた言葉だけど、今回は本当に「知らない他人」にリセットされてしまったんだろうか。 俺は今にも雪が降りそうな夜空を見上げて、ため息をついた。
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