鮮血に染まる雪が僕に真実を告げる

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流れるように僕の自宅までついてきた彼女。 少しばかりの間、ユキネは僕の家の同居人となった。 いつまでいるか問うと「死ぬまで」という。短いのか長いのか。ある意味で生涯の誓いとも言えるのだが。 荷物と言えばいくつかの生活用品と服装くらいで、服装もバニラ色のニットセーターにブルーのデニムパンツという同じものが何着も。いつのまに手続したのか、住んでた賃貸マンションも引き払ったという。 都会の片隅にある小さな一軒家での二人暮らしは、死を巡る会話でにぎわった。 「確かに僕は早いうちに両親を亡くして一人になった。でもこの家を残してくれたし、当面働かなくても良いほどの遺産も残してくれた。十分に感謝してる。僕が死にたいと思うに至ったのは、まったくもって僕自身の問題なんだ。親の死は一切関係ない。両親の名誉にかけてこれだけは強く言っておきたいね。」 「わかるよ。気持ちなんて内から起こるものなんだから、外的要因を求められても困るのよね。私もこう見えて会社勤めしてて、結構稼いでたのよ。でもある日プツンと。本当にプツっと切れる感じで、死にたいと思った。一度思い始めるともう止まらなくって、どう死ぬか、死ぬなら美しくありたい、その瞬間を留めるには。なんて考えるようになったわけ。」 ・・・ 「僕が死にきれないのは、僕自身の死に何か意味を見出したいからなんだ、と思ってる。フラフラ死のうと出かけては戻ってくるのは、きっとそんな願望が邪魔してるせいなんだ。」 「でも意味って見出せるものかしら?私の願いなんて独善でしかないわ。私の死を見届けてもらいたいなんて、意味を聞かれても答えられないもの。」 「いいんだよそれで。生きるのにどんな意味があるのか、なんてのは哲学の領域にもなってくるし、自信を持って答えられる人は僅かしかない。死も同じだと思う。」 ・・・ 「そのアイデア素敵!私のイメージにぴったりだし、あなたの願いも叶うわね。」 「うまくいくかは賭けにあるだろうけど、二人が願い通りに死ぬのはこれ以上ないね。」 「絶対大丈夫よ。あとは場所かぁ。二人あわせると『名所』は行き尽くしちゃったもの。」 「いいさ。時間だけはたっぷりある。」 ・・・ 「いい所見つけたかもしれない。前に話したと思うけど、私、働いてる時は結構アクティブでね。山登りしてたの。そこですごくいい場所があったのを思い出した。行ったのは夏なんだけど、今ならきっと雪が積もって綺麗なはず。」 「雪か。それはいいね。山ならまだ雪は残ってるはずだし、駆け込みでいけそうだ。」 「出会ったのは初雪で、名残雪で終わる。素敵なストーリーね!」 プランが固まった頃から、僕らは愛し合うようになっていた。 生への執着などは毛頭なく、むしろ死に向かうがゆえに、蝋燭の最後の灯が燃え上がる様に二人は激しく求め合った。互いの役割を入れ替えて肉体と魂を交差させ、次なるステージに向かって混ぜ合わせる。 愛し合うからこそ、愛する人を手にかけた瞬間は一層目に焼き付くことだろう。 僕はすっかり彼女のストーリーの当事者となっていた。
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