鮮血に染まる雪が僕に真実を告げる

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僕と彼女が出会い、ちょうど1年。 美しいラストシーンまでの記憶と、僕がこの場に立つまでの蛇足の再生が終わった。 足下にはユキネが眠ってることだろう。 僕も雪解けには彼女の隣に添えるはずだ。 雪山ブーツに体重に支えられたまま雪に広がる赤い染みを眺め、このまま僕はーーーーー ふと、何かの違和感を感じる。 と同時に、ゴホっと血を吐き出した。喉に呼吸の通り道ができて少しばかり死の未来が遠のく。思考の時間が生まれ、活動を止めようとしていた脳がにわかに疼いた。  僕は意味を持って死ぬことを望んだはずだ  記憶を保存するために生きて いつか死ぬのではなく  意味を見出してすぐにでも 死にたかったはずだ   かすんでゆく目に雪の輝きが一層眩しく映る。 白い光が血を覆い隠すように。  結果的に自ら死ぬことにはなった  しかし 二人のプランに僕の死の予定はなかった  死ではなく 帰って生きることが僕の役割だった   紅い色彩が色を持つ閃光のように煌めき、視界を駆け巡る。 純白の雪を覆い隠すように。  二人の願いを同時に叶えたはずなのに  なぜ僕は 彼女を殺してもなお 生きたのか 疑問が早回しで見る風船のように急速に膨らんでいく。 制御を失って暴走するように膨らむ。あふれゆく。 破裂せんばかりになったその時、白と赤が交差した針が見えた。 キリキリとした先端が風船の脆弱な腹に突き刺さり、弾けた。 バーンという轟音とともに爆風が唸りをあげて吹き荒れる。 四方に飛び交う風が頭を激しくゆさぶった。 風が徐々に力を弱めてきたかと思うと、ある瞬間にスウと静寂が訪れる。 つかの間、息を一気に吸い込むように風が引き戻され始めた。 ゴオオと音を立て、その勢いは留まることを知らず、脳の奥に向かって風が、風と一緒に。 誰かの声が流れ込む。 ーーーーーー手を胸に その声はとても優しく、従うのが当たり前のように身体が反応した。 ナイフを持ってない方の腕に意識をやり、力を振り絞って持ち上げていく。 しびれに抗いながら、震えながら。 ーーーーーー答えはそこに 肘から先を折り曲げて、冷たくなった掌を広げる。 徐々に、ゆっくりと、寒空のなか露わになった僕の胸に近づける。 落ちた視線の先にある雪が、血が、明るく瞬いて。 鮮血に染まる雪が僕に真実を告げる。 ーーーーーーあなたがユキネでしょう 僕の胸には、女性のそれとわかるものが在った。
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