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過去から現在へ。
◇◇◇
「よく来たね、耀。悪かったね……イタリアから此処まで来てくれて。疲れただろう、紅茶を飲んでゆっくりしていきなさい」
ただいま、目的地である事務所のソファーに座っている最中。用意された温かい紅茶を口につけながら私は笑顔で社交辞令をする。
「とんでもない、社長。ちょうど、日本へ用事があったので大丈夫です!あの……、さっそくなんですが今回の《シゴト》の件のお話を……」
「うん、ちょっと待ってて貰って良いかな?もう一人、来るからね」
(……もう一人?……って事は、今回のシゴトは単独行動じゃないのッッ!!?)
社長の言葉から汲み取った内容を即座に分析した私は、(日本へ戻れるチャンスが……)と内心落胆としていた。
もちろん、表情は笑顔のままだ。そんなこちらの考えを読み取ったのか。
「大丈夫だよ。今回のシゴトは君のお友達と一緒だからね。安心なさい」
穏やかな声色で丸みのある話し方をする社長に、私は何故そんな事を言うのか不思議に思った。質問をしようとしたその時。
「……あぁ、ほら。もうすぐ来るよ」
一言遮られ、口から出かかった質問を飲み込む。
同時に、背中に悪寒が走ったのだ。
この部屋が寒い訳では無い。
上手く言えないが……嫌な予感がする。と言う言葉が的確だろう。
主に、私の真後ろにある事務所の玄関ドアからだ。
しかも徐々に大きくなっていく、性格が滲み出ているヒール音。
私様専用のランウェイの如く、こちらを見な!と言わんばかりに近づいて来るのが分かるくらいに。
そんな自己主張が強いヒール音が、止まった。年期の入った無機質な音が響く中、完全にドアが開かれる。
「社長、お久しぶりですぅ〜〜♪」
その声を耳にした瞬間、落胆していた気持ちが更にドン底へ突き落とされる。
この独特なイラつく喋り方と媚を売るような甘ったるいソプラノ調の声色。
「遅くなって、すみませーん。今回も宜しくお願いしますぅ〜!」
そんな相手は、私に気づいてないのか今だに猫撫で声を出したままだ。
「待ってたよ、咲。さぁ、こっちへおいで。今日は君のお友達も一緒だからね。こっち事は気にしなくて良いから、ゆっくり話しに華を咲かせてもかまわないからね」
こちらの事情を知らない社長は、呑気に戌塚に伝えながらこちらへ誘導をする。
だが、私の中で疑問が増えた。
ー何故?社長は私と戌塚が友達だと思ったのだろう……?
「え?おと……もだち……ですか?」
ほら!戌塚も同じ事を思った。一緒にされたく無いが。
そんな考えに没頭している中、隣に来たアイツ。お互いに時が止まった瞬間である。
「………ゲッ!下品羊」
私にしか聴こえない低い声。絶望感が出ている表情と本性を見れて、心の中で大爆笑をしてやった。
二度と顔を合わせたく無かったのは、私だけでは無かったようだ。まぁ……、とりあえず。
【お久しぶりね!私の『お友達さん(仮)』】
この後、社長から神龍時 宇宙のせいで〈お友達設定〉をされた事を聞かされた私達の話しは別の機会に★
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