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彼女、過去の一部は。
◇◇◇
私は、彼氏が淹れてくれた黒豆茶をゆっくりと味わいながら、再びふと思い出す。
あの女の事を。
数年前の、この時期。
女子大学に通っていた私は、友人に恵まれていた。
「卒業したら、皆んな新生活で忙しくなるから冬休みに行かない?」
という話しになり、皆んなで計画を立てて京都に行く事になった。
当日、京都に到着した私達は初日に嵐山方面へ電車で向かった。
電車から眺める景色は、真っ白な景色で太陽に光で反射した雪達は別世界ではないかと思う程、幻想的で傷ついた心が洗われるくらい綺麗だった。
駅へ到着し、目的地へ行くまでに昔ながらの精肉店を通った時だ。
女子高校生らしき会話が耳に入る。それに、口の中を頬張って美味しく食べている笑顔の彼女達が視界に入った。
「このコロッケ、【数量限定の幻のじゃがいも】を使ってるんだってね!
私達、お寺へ行く途中で偶然通りかかったけどラッキーだったね!!」
(………数量限定のじゃがいもを使った……コロッケッッ!!?)
その魔法の言葉が私の食欲の湧き水をより多く湧いてしまった瞬間である。
「ただいま、数量限定のじゃがいもを使ったコロッケが、あと一つで終了しまーす!」
離れた場所からテイクアウト用のコロッケを作っている活気のある女性スタッフ声。それを聞いた私は、思わずダッシュをしていた。
後ろから「ちょっと!どこに行くの!?耀!!」という友人の声が聞こえたが、それどころでは無かった。
走って!
走ってッ!走ったッッ!!
あと少しッーー!
今誰もいないブースに、やっとの思いで辿り着ける。
心の中で、力強くガッツポーズした!
「コロッケのお買い上げ、ありがとうございまーす!」
「ありがとうございますぅ〜♬いやー、最後の一個食べられるなんてあたしってラッキー♪」
…………………は?
……え?
……ハァァァぁぁぁァァァぁぁぁあああッッッ!!?
目の前に突然と現れたショートカットの後ろ姿の女。
背丈は、中肉中背の外見で後ろからだと何も特徴は無い。一言で言うなら無害モブだ。
でも何故だろうか……。この媚び売るような甘ったるいソプラノ調の声は癪に障る。
横入りして、最後の戦利品を奪った目の前の女に何もできず、呆然としていた私に相手はこちらを振り返った。
すると、薄紫色の三白眼の瞳孔が見開き驚愕をしている顔をするではないか。
右半分だけの前下がりボブヘアーがさらりと揺れ、お互いの時が止まった。唖然としてしまったのだ。
まさかの出来事に。
(……【戌塚 咲】ッッッ!?)
ここで十二支の関連の人に会うとは誰が思うものだろうか!
コイツとは、昔馴染みだがソリが合わないのだ。でも、相手にしなければ無害に等しい。そんな考えを露知らずの相手は。
「ごッッめんね〜〜!最後の一個を買っちゃって☆でもぉ、私が先だったから仕方ないよねぇ。耀ちゃん」
うん。前言撤回。
コイツ、有害だわ。マジで殺そッ。ーー主にメンタル面を。
悪びれる様子が無いどころかウインクしてくる三白眼女。
コイツの頰のそばかすがチャームポイントとか世の中の野郎は言うが、今すぐに眼科行ってこいよ!と言いたくなる。
寧ろこの状況で、かわい子ぶりっこしてて見てて疲れる。脳みそに虫でも湧いてんじゃないの?と軽蔑の目で見たくなくても見てしまう。
そんな考えをしている間に、この女は言いたい事を言って満足したのか何事を無かったように言葉を続ける。
「耀ちゃん、なんだかごめんねぇ〜。あ!ほら、他のメニューがあるよ?」
「ん〜!コレ美味しーぃ♡買って正解だわぁ。話し分かってくれてありがと!耀ちゃん。
やっぱ、私達【親友】だね!!」
(……【親友】じゃねぇーよッッ!!何を言ってんの!?コイツッッ!!)
そして悪気なく目の前で無邪気に食べ始める駄犬女。
見るに見かねたスタッフも、気を使って言葉にする。
「あの……、こちらのお友達さん?の仰る通りに他にもございますので……いかがでしょうかね?」
怒りを通り越して、言葉が出ないとはこの事だ。
しかも、こんな媚び売り駄犬と勝手に【お友達認定】をされてしまった屈辱感が重くのし掛かる。
ーーダメだ……!
その先は私のメンタル面が危ういから、もう思い出したくない!!
悪夢の思い出話しは、ここまでにして。
今から今回の目的場所へ行こうと私は静かに立ち上がった。
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