*九章の弐

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*九章の弐

「……ごめんな、さい……」 「そんなに、ぼくに看病されるの、いや?」 「いえ……そう、じゃ……なくて……」  荒い呼吸のはざまに、紺はあえぐように言葉をつむぐ。苦しそうに、とぎれとぎれに。  何度も肩で息をしながら、紺はぼくの方を見て、泣きそうな顔をして無理矢理に微笑んできた。 「緋唯斗には……迷惑を、掛け……られないのです……抑えが効かないから、どうか……いまの、私に……近づかない、で……」 「そんな、できないよ! すごく具合悪そうなのに!」 「いいえ……本当に、近づかな……加減が……でき、な……」  ぼくから視線も顔も反らして全力で拒むような姿勢を取っていたはずなのに、次の瞬間、紺はぼくの手首をつかんだ。  ――手が、すごく熱い……と、感じた時には、ぼくは紺がさっきまで寝ていた布団の上に押し倒されていた。  乱れた長い銀髪の影から、虚ろだけれどぎらぎらしている、尋常さがない紺の目がぼくを見おろす。  見開かれた白銀のような紺の目に映し出されているのは、そんな彼の姿に驚きと怯えを隠せない小動物みたいなぼくだった。 「……紺?」  恐る恐るぼくが名前を呼んでも、紺はいつものようにやさしく笑ってくれることも、返事をしてくれることもない。  片頬をあげるようにゆったりと――まるでこの前見た金路のように、それ以上に嫣然に笑ったかと思うと、紺はぼくの口を唇で塞ぎ、舌を吸って絡まるような激しい口付けをしてきたのだ。  キスされること自体初めてだったぼくは、衝撃のあまり紺の身体を押し退けることも拒むこともできないでいた。  それでなくても……なぜか、金路に見つめられた時みたいに、瞬きすらできない。  ぼくの身体なのに、ぼくの思うとおりに動かせない……その事実に頭は混乱している筈なのに、凍り付いたまま動けず、紺からの激しい口付けを受け続ける。  息が苦しい……呼吸すらままならないほどの口付けに意識がもうろうとしてきた頃、ようやく唇が解放された。
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