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*十一章の壱 再びの、夢
気付いたらぼくは、あの鳥居がずらりと並ぶ石畳の場所にいた。
前も後ろも鳥居がずっと立ち並んでいて、鳥居と鳥居の間には灯篭が立てられている。
ぼくの格好は白無垢姿ではなくて――下着みたいな薄い着物……たぶん、襦袢、というものを着ていた。
するする肌触りのその感触を確かめるように袖を通した腕をあげたら、その手を誰かがそっと握ってきた。
見ると、そこには薄紫色のくるくるカールしたかわいい髪に、白い巫女さんが着るような着物姿の、白狐のお面をつけた、薄紫色の狐の耳をした若い女のひとが立っている。
何度か夢で会ったことがある女の子に似ていてどこか知っているような不思議な気分で見ていると、静かな凛とした声でその人が話し始めた。
『――わたしは、狐の国より参った遣い……緋唯斗、そなたの傍らに銀狐の迎えが来ておる』
「……銀狐の、迎え?」
『そなた、銀の髪をした不思議な男を拾ったであろう?』
「それって、もしかして紺のこと?」
薄紫色の狐の耳のひとは微かにうなずいたような動きをして、更に言葉を続ける。
『そなた、銀狐の種を受け、嫁になるか?』
「たね……? 嫁、って……」
ぼくはたね、という言葉にさっき紺としたことを思い出して身体がカァッと熱くなっていく。
紺とぼくは……セックスをしたんだった……それも、すごく激しいやつを……その時の快感と感触が一瞬甦ってきて、ぼくは思わず襦袢の端を握りしめる。
薄紫色の狐耳のひとは、構わずこうも言う。
『――それとも、金狐の嫁になり、種を受けるか?』
金狐……と言われて、金色のせいか脳裏に黄金色の髪の金路の姿が過ぎった。それから、あの時の怖いという気持ちも。
言われている言葉の本当の意味はわからなかったけれど、もし、ここでそばにいるという銀狐ではない方を選んでしまったら、それきり紺に逢えなくなる気がした。
だからぼくは首を大きく横に振る。
「いやです! ぼく、銀狐が……紺がいいです! 紺のお嫁さんになりたい!」
ぼくの叫ぶ声が、辺り一帯に響き渡ってこだまして、応えるように遠くで澄んだ鈴の音が聞こえた気がした。
鈴の音が段々と近づいてくるな……と思って辺りを見渡していたら、ぼくの前に立っている薄紫色の狐耳の女のひとがゆったりと口許で微笑みを作った。
『あいわかった……では、その通りにしてやろう』
そう、囁くように言ったかと思うと、そのひとはぼくのお腹の辺りに手を宛がう。
襦袢越しに感じる手のひらはやわらかであたたかで……すごくホッとする感触と、微かに何か波打つような感触……?
一体何が……そう問おうとしたらまた目の前が真っ白になって、薄紫色の髪の狐耳の女のひとも、たくさんの鳥居も、見えなくなっていた。
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