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*一章の弐
「緋唯斗って拾い物でトラブル巻き込まれるのに、よくまあ懲りずに拾うよなぁ」
交番に拾ったスマホを届けてバイト先であるお惣菜屋・たんぽぽに行くと、同僚で同い年の白川くんから呆れられた。「緋唯斗ってかなりお人好し?」とまで言われる。
ぼくは揚げたての唐揚げをショウケースの大皿に盛りつけながら軽くムッとしつつも、言い返しはしなかった。お人好しの自覚はなくはないからだ。
たとえお人好しだって言われようとも、拾い物をするのはぼくに染みついたクセというか習慣のようなものだから、今更どうこう出来るものじゃない。
「人には親切にしなさい。親切は自分のできることを一生懸命やれば、きっと相手は喜んでくれる」
小さい頃から、いまは亡き両親に口酸っぱく言われてきた言葉だ。親切はいつか自分に還ってくるからね、とも。
幼かったぼくにできることは何だろうって一生懸命考えて、考えた末に思い付いたのが落ちているものを拾う、ということだった。ゴミ拾いとはまた別の拾い物だ。
よく教室には落し物があったからそれを拾ってあげて届けたら友達にも喜ばれるし、先生にも褒められるし、その内得意になって教室の外でも拾い物をするようになっていった。
もちろん、純粋に落とし主に届けられる嬉しさもあるけれど。
「だってさぁ、落とした人は現にそれがなくて困ってるわけじゃない? そういうのを知らんふりすることはできないよ」
「そんなの落としたやつが悪いんじゃん」
「でも、自分が落としたときは拾ってもらえたら嬉しいでしょ?」
「まあ、そうではあるけどさぁ……」
「それに、拾い物するのも何かの縁じゃないかなって思えない? 袖振り合うも他生の縁、っていうの」
「……それで反社に絡まれたりするんならそんな縁いらねぇなぁ、俺は」
まあ、そういう特殊な例もあるけどさ……と、ぼくも苦笑いはしたけれど、やっぱり、拾い物だって縁だと思うんだ。人と人の繋がりって、そういう思いがけないものがきっかけで繋がっていくものなんじゃないかな、って。
白川くんはぼくの言葉に、「また始まった」みたいな呆れた顔をして聞き流していたけれど。
「緋唯斗くらいじゃない? いまどき、拾い物で住む部屋見つけたとか。そんな、わらしべ長者みたいなことってありえねぇって」
「ぼくの場合は拾い物じゃなくて、行き倒れだったけどね」
「……なお悪いだろ」
白川くんはぼくがいま住んでいるアパートとの巡り会わせの話をすると、呆れるのを通り越して引いてしまう。
ぼくは二年前の春先のアパート探しの際にいま住んでいるアパートの大家さんであるおばあさんが倒れているのを助けたお礼として、家賃がタダ同然で住まわせてもらっている。
「物も人もだけど、緋唯斗は動物も良く拾うじゃんか。なんだっけ、あの犬とかさ」
「犬じゃなくて、狐だよ」
「……お前まだあの事気にしてんのか?」
白川くんの言葉でぼくが俯くと、「緋唯斗、お前さ……いつか拾い物で死ぬぞ」と、結構マジなトーンで心配されてしまう。
でもそう言われても無理はない。ぼくが奨学金とバイト代だけでどうにか生活しているのに後先考えずに動物を拾って近所の獣医さんに駆け込むのだから。
拾い物の話をするたびに、真顔でこう言って心配してくれる白川くんもまあまあ良い人なんだろうなとは最近では思えるようになった。口は悪いけど心配してくれているのはわかるから。
とは言え、ぼくとしては、やっぱり拾い物から繋がるささやかな縁も大切にしていきたいし、助けになることで喜ばれるのも嬉しい。
それに、縁はまわりまわってぼくが住むアパートを見つけられたみたいに、自分が生きていく上ですごく助けになるはずだからだ。
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