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*四章の弐
「ありがとうございます。助かりました。本当に、感謝しています」
「いやべつに、そんな……よくあることだし……」
「緋唯斗さんはやさしいんですね」
低く甘い、だけどやさしく耳元をくすぐる声に、ぼくはまた胸がドキドキしてくるのを抑えきれない。
緋唯斗さん、なんて呼びかけてくれるから余計に照れくさくて、ぼくは、「……緋唯斗でいいよ」と、やっとの思いで答えた。
「ねえ、そういえば、ええーっと……名前は……」
「私は、紺です。色の、コン」
「紺……」
偶然なのか何なのか……あのコンと同じ読み名のひとを拾ってしまうなんて。ぼくは思いがけない巡り会わせにまた胸が高鳴った。まだなにも、わかっていないのに。
「紺は、どこから来たの?」
「私ですか? そうですねぇ……随分と遠くから来た気がします。長いながい旅をしてきました」
「そんなにしてまで探したい人なんだね」
「ええ。約束をしましたからね。迎えに行く、と」
迎えに行く約束……夢の中で見た不思議な姿をした人と同じような姿をした彼の言葉に、ぼくは驚きを出さないようにするのに必死だった。
だって、ぼくがお嫁入りするなんて夢の話をしたところで、それが紺の捜している人のことになるとは限らないし、そもそも信じてもらえるとは思えないからだ。
だけど――……これもまた、拾い物が繋いだ不思議な縁であることに変わりはないのはたしかだ。
春の夜空に浮かぶおぼろ月の明かりの下、ぼくと紺はこうして出逢った。
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