ファンタジーは突然に

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僕はアラフォーの、ただの地味なおっさんだ。 仕事でくたびれた顔は至って平凡、中肉中背で可もなく不可もない見た目、温厚で優しいといえば聞こえが良い性格は、裏を返せば気弱で小心者だと思う。 自信がないことには手を出さず、無理をしないで控え目にが一番。 三十歳を過ぎた辺りから親や親戚に結婚 結婚と急かされてはいるものの、現在も独り身だ。 女性にまったくモテないという事実もあるが、何を隠そう、僕には女性を恋愛対象として好きになるという感覚がない。 ときめくのはいつも男性……思春期には そんな自分が異常なんじゃないかと悩んだりもしたが、幸いLGBTQという言葉が登場し その意味を理解してから、決して僕だけの悩みではないと気づいたのだ。 まぁ まだそういうことに免疫のない両親が知ったらひっくり返るだろうし、湧き上がる感情を心の中に留めておけば 誰かに迷惑をかけるわけではなし、一生ひとりで過ごす覚悟は出来ているから問題はない。 僕は 町の小さな弁当屋『ねこの手』の二代目、元気でちゃんと仕事があって、派手ではなくても平々凡々と暮らす──そんな当たり前の日々が送れるだけで、充分幸せだと思っていた。 うん あいつに会うまでは。
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