ファンタジーは突然に

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半年前、昴くんの働いている美容室で彼に髪をカットしてもらって以来、その技術の高さと 客に媚びを売るわけではないのに何故か惹きつけられる魅力に、すっかりハマってしまったらしい。 しかも沙希子ちゃんは、ダンサーになりたいという夢を彼に打ち明け 応援の言葉までもらって、辛いことがあってもそれを思い出せば耐えられるのだそうだ。 うちに弁当を買いに来ていた昴くんに気づき、声を掛けたのは沙希子ちゃんだし、彼を『素敵な人だ』と常々思っていた僕にとっては、沙希子ちゃん情報で彼の名前や職業がわかり非常にラッキーだった。 しかも、どさくさに紛れて"昴くん呼び"まで出来るようになったし。 本当は、沙希子ちゃんみたいに昴くんの美容室に行ってみたいけれど、あの美容室、キラキラしていてお客は大半が女性で、とてもじゃないが敷居が高い。 だから、どうだと? 勇気を出して美容室に行ったところで、何が起きると? もしかしたら、積極的な沙希子ちゃんがどんどん押して、昴くんとそういう関係になるかもしれない。 男である僕はそれを、良かったね、って祝福する立場なんだ。 何回か経験したことのある虚しさを、また味わうだけのこと。
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