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現場は、日本でも有数の豪雪地帯のひとつ。報道番組で大雪となれば、先ずは取材の対象となる地域である。 今年の雪は降り始めが遅かったとはいえ、地元の人が少ないというのは東京都民からしてみればとんでもない大雪なのだが。5メートルほどの積もった雪の壁も、雪おろしや除雪車の影響で軒下などの雪が溶けずに山となった結果出来上がる産物に過ぎないので、降ったことにはならないらしい。 確かに昨年より比較的楽に、車で移動できるような気がする。とはいえ間取なんかは、まだ二度目の冬に過ぎないので偉そうにはいえないが。 同じ条件のはずの黒岩は知らぬことなどないような顔をしているが、よもや車を動かすために朝は2時間前に起き、退勤時も雪山に埋もれた中から車を救出するのに1時間、やっと下宿に着いたと思ったら駐車場に入れるためにまた2時間ほど雪かきするなんてよもや経験していないだろう。 送迎の者が毎日、ピカピカの黒塗りの車で迎えに来ているはずだ。その証拠に、高級そうな艶々の靴をいつも履いている。それを見るたび、間取はワークマンの長靴の良さをしみじみ味わいながらも何故か胸くそ悪くなるのであった。 それもご丁寧に病院までお迎えにその車で来てくださるので、否が応でも後部座席に横並びになる。 丁寧に掃除されたフロアマットを泥で汚す自分の長靴と並行して、ピカピカの靴が並ぶのをずっと目にしながら現地に入るまでの苦痛。特に湿った長靴を脱ぎたくなるのを我慢して乗っている間取とは違い、黒岩は現場に着くなりカンジキまで装備された靴に履き替え、颯爽と歩いて行く。それを柔らかな雪に足をとられながらもたもたと歩いて追いかける間取は、むかつくのも致し方ない。 本日も、そんな道中を経てご遺体様との対面と相なった。
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