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〆
「自殺だろうな、おそらく」
自信満々に鷹のようなその目を細めて笑う黒岩は、それこそ綺麗過ぎて死神のように笑う。
そう、ご遺体はまるで頭からダイブするかのように、直立した姿勢のまま真っ直ぐに雪に埋もれた状態で掘り出された。窒息する苦しさに抵抗した痕跡もなく、穏やかな死に顔をしていた。
それに滑って落ちたのならば、足から先にが自然だ。
里村智茂には、多額の死亡保険契約をしていた事がわかっていた。だがおそらく片親ということで、自分が何かあった時のためにと契約はかなり以前から交わされているし持病も申告してある。保険金目当てとは疑われないだろう。
脳梗塞の既往があるとはいえ、現在まで認知症の診断はされていない。昨年智茂が自動車免許の更新をした際の検査でも、それを裏付ける問題のないデータだった。
それでも寄る年波には、勝てなかったのだろうか。息子の智成は、脳梗塞後の父親の状態の変化にいち早く気づいて同居の準備を始めたのだった。
それと同時に父の智茂も、孫の病気や自分の変化に気がつき重荷にならないように計画を練ったのではないか。間取や黒岩でなければ、いつもの除雪中の事故として処理されているようなよくある案件として。
黒岩は最初、遺産の多さや死体の状況から事件性を疑った。なので、はなから息子の聴取に向かって行ったに違いない。
そしてそれを踏まえて、黒岩が社会性に疎いと信じて疑わない間取に対して、釘を刺しに来たという事だろう。
甚だ不愉快だが、死神顔のくせに天使のようなことを平気でする悪い警察官僚。それが、黒岩警視正という男だった。
間取は結局ひとことの意見も求められないまま、『死体検案書』のチェックを受けて合格をもらったような有様で、
「ほら、早く遺族に渡してこい!」
とドヤされただけだった。
くっそ忌々しい!
そう考える口下手な間取は罵詈雑言を浴びせる暇も与えられず、公用車から放り出された。
パシリかよ!
頭にきてざっくんぎゅっくんと、雪を奴の顔の代わりとばかりに強く踏みつけながら里村智成のところへ書類を届けに戻る。
一旦止んだ雪が、また白い鳥が一斉に飛び立つように舞いはじめていた。
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