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〆
間取がひと通りの説明などを終えて黒岩の公用車に戻る道は、すでに本降りの雪景色となっていた。
これは急がなくては帰れなくなると、足を雪に取られつつ必死に車に戻ると、黒岩は先ほど間取が智成からもらった雪室野菜を丁寧に選り分け終わって上機嫌に珈琲を飲んでいるところだった。
「この雪室野菜は艶といい、かおりといい絶品だな。これぞ雪の正しい使い方だぞ」
「何勝手に!警察官のくせに賄賂を受け取るなんて、あり得ない!」
「お前がもらったもので、俺がもらった訳じゃないだろう?それとも、お前が俺に賄賂をくれる謂れでもあるのか?」
「あるわけない!」
「ひとり者で、料理もできないお前に雪室の野菜など豚に真珠だ」
「な⁈知ったような…」
「この人参など、キャロットラペにしたらさぞかし美味いだろう」
「キャロットラペ?」
「知らないのかお前…」
「知るか!そんなもん。本当にうまい人参なら、そのまま食えばいいだろうが!」
「はぁ?お前は馬か?」
黒岩は、呆れながらも本気で可哀想な奴という顔をしたので、食べることに全く興味のない間取はそれ以上言い返す気力も尽きた。
そうして雪でベタ濡れになり、寒さも相まってつい地が出てしまったボロ雑巾のような間取のことなどお構いなしに、車は雪吹雪のなか帰路につくのだった。
了
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