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トウェルブ・トウェルブの使い手
白い白い雪景色。
いや、雪景色というには、あまりにも人間社会と隔絶した環境で、なにもかもが近づく事のできない、地上の果てのような氷河というべきか。
強烈な風が絶え間なく吹き付けて、雪ほこりをまき散らす。
丁寧に磨き上げたかのように光る雪の平野と、その先には見た事も無いような、雪の絶壁。その先には海がたたずんでいた。
幾度となく波が雪の絶壁に打ちつけると、雪の壁は音をたてて崩れ、海の中に吸い込まれて行く。
鳥が飛んでいる。
こんなところに?
アザラシの姿もある。
何者も住めない土地ではないのか?
そこに忽然と一人の旅人がその氷河の平野を歩く姿。
全身は黒い鎧のようなものに覆われて、手には槍のようにかたどられた杖を突いて歩いている。
「海か・・・・」
男は呟いて、遠くを眺めながら一息をつく。
背負っていたリュックサックより、大きめの水筒を取り出すが、おずおずと再びリュックサックに入れ戻す。
「喉が渇いた。」
男はその場所に野営地を立てる事を決める。
杖を雪面に突き刺すと、槍の柄の部分にある様々なスイッチを繰り返し押し込む。
するとどうだろう。周囲の雪が強烈ななんらかの磁場によって巻き上げられ、半球円のドーム状のほこらが完成した。
丁寧に扉も設えてある。
男は扉をくぐり中に入る。
部屋の中は暖房が既に機能している。
男は着こんでいた鎧を取り外すと、すぐにてのひら大に、鎧が小さくなった。
鎧の中からは、華奢な目の青い青年が現れる。
髪は銀髪。
背負っていたリュックサックの中から水筒を取り出して、口に含む。
したたる水が顎をつたう。
「さて・・。今日はここで寝るか。」
床を靴でなんどか叩く。床はなんらかの布で覆われている。
「だが・・腹もすいた。」
男はふたたび鎧を着こむ。なんらかのスイッチに反応して、すぐに鎧の中に男がおさまる。
扉をあけると、さっきまでの青天とはうってかわって、強烈なブリザード。視界はほとんど無く。先ほど見えていた海すら見えない。
「だめか・・」
諦めて半球円のドームの中に戻った。
仕方なしの表情をしながら、リュックサックから缶詰を取り出して開ける。
「今日は生肉が食べたかった。」
『生肉はいけません。』
どこからともなく声。槍が喋っている。
「そうだな。」
『半径10km以内に生命体反応が複数あります。』
「この嵐じゃ、狩どころじゃないだろう。」
『30分後に嵐は晴れます。』
「じゃぁ暫くは缶詰でもほおばりながら、待つか。」
『敵も現れました。』
「なんだよ。いつも奴ら急なんだよな。食いかけ、どうしてくれるんだ。」
缶詰の中身を半分も食べ終わらないうちに、仮住まいはたたむ事になった。
男は槍を脇にかかえて、猛吹雪の中に立つ。
その刹那、斬撃が男を襲う。
真正面から受け止める。
後ろに吹き飛ばされながらも剣圧に耐える。
視界はゼロだが、感覚を頼りに、剣を槍で押し返す。
「どこにいやがる。」
不意に目玉の周囲に触手が大量にくっついた巨大な生き物がぶつかってきた。
たまらず、後方にジャンプしてかわす。
「せっかく海まで来たってのによ!」
槍を数回振り回すと、目玉の生き物をしとめる。
『敵の本体は、100kmかなたから、ヒットアンドウェイで近づいて来て攻撃しては、再び100kmを高速で離れる、を繰り返しています。』
「人間じゃねーのかよ。」
『トウェルブトゥエルブによるものかと。』
「じゃーらちがあかない。逃げたい。」
『退路を計算しています・・・・少々おまちください。』
「とっととずらかる。こんなのを相手にしている場合じゃない。でもこの辺りの地形データは充分に手に入れた。たく。文明が進んでいるんだか進んでいないんだかわからないぜ。」
『退路を確立できました。ワームホール開きます』
「おう。」
男は吸い込まれるように、ギラギラと輝く、ワームホールと呼ばれる空間の中に消えて行った。
丁度別の目玉の生き物がかみつこうととびかかった瞬間だったが、寸前でワームホールごと、空間から消滅してしまった。
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