地上の果てに2

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 男はワームホールをつたって、別の場所に到着した。  すぐにワームホールはその姿を消失する。  「逃げ切れた。」  そこも雪がもうもうと降り続ける地上だ。  だが周囲は木々の群れに囲まれている。  枝葉の無い木々。すでに何年も前に枯れてしまったのではなかろうか。生気が感じられない。  地面、雪山が動き始めた。大きな音を立てて、積もっている雪を押し除けながら、雪の中から人が通れるだけの入り口が姿を表した。  中はくだりの階段になっている。  すぐに階段の中に雪が吹き込んでいく。  男は階段を降りる。  少し階段を下ったところで、入り口が閉じられる。  吹き込んでいた雪が途絶える。  階段内に明るいライトが点灯した。  周囲は鋼鉄の鉄板が張り巡らされた頑丈なつくりである。  コツコツと音を立てながら階段を下る。  男は体に積もった雪を払い除ける。  槍をコンパクトに畳む。長さは30cm程度になった。あれだけの大きさのものがどこに消えたのだろうか。  腰にぶら下げたバッグの中にしまい込む。  しばらく下ると、エレベーターホールに辿り着く。  エレベーターホールは赤い絨毯が敷き詰められた豪華な印象だ。  3基分のエレベーターのドアが設置されており、ガラス張りであるため、奥の剥き出しの機械が、忙しなく仕事をしている様子がわかる。  その向こう側もガラス張りになっていて、奥行き広く、黒い空間が存在することがわかる。  エレベーターの下ボタンを押す。しばらく待つ。  すぐにエレベータが到着する。  男はエレベーターに乗り込んだ。  しばらくエレベーターは降下を続ける。  そして目的の階にたどり着いたところで、エレベーターのドアが開く。  巨大な鉄の青色のドアが目の前に聳え立っている。何もかもを遮断するために置かれているような印象。  部外者や外敵などをここで食い止める役割なのだろう。  監視用のカメラや、狙撃用の銃口がこちらを窺っている。    「俺だ。」  ドアの前で声を上げる。  ”確認しました。お通りください”  男性のアナウンスの声。  扉が開く。  中はとても広い事務所のようになっていた。  人がたくさんいる。  数百名が一つのフロアで様々な仕事をしている様子だった。  数百台のPCや電話が置かれている。  ホワイトボードやプロジェクターのついた会議室などが、たくさんある。  雪の中の静寂とはうって変わって、人と人が挨拶し談笑し会話する光景。人と人の営みがそこにあった。  「お疲れ。どうだった?」  笑顔で男に向かって歩いてくる、茶色の髭をたくさん蓄えた男性の姿。胸には「アレクサンドラ 柿崎」と書かれた名札がついている。  手にはタブレット型のPCを持っていた。  周囲は誰もが同じ制服を着ている。  灰色をベースとして、手足に縦の白い2本のストライプが入っている。  「海までは達したが。そこでトゥエルブ・トゥエルブの兵器に出くわしてやむなく撤退した。」  「想定よりも20kmも進んだんだ。あの雪道で。上々の出来ではないかな?」  「もう少し海に近寄りたかった。現在の海の化学組成を調べる必要があった。」  「確かにそうだが。それは次回以降にしよう。」  「了解。」  「そうだ、皇帝陛下の晩餐会だが。参加できそうか?」  「予定通り参加する。」  「そうか。これまで2年間調査した結果を報告することになる。我々は今どこにいて、なぜこうなっていて、今後どうなって行くのか。」  「そうだな。任せておけ。」  「頼もしいな。そうだ。さおりのところに早く帰ってやるといい。寂しがってたぜ。」  「さおりが寂しがるわけない。」  「まぁ、そういうな。あれだけ気丈に振舞っているが、内心、年に数回、何ヶ月も戻ってこれない任務に平気なわけがない。」  「ふん。」  男はそう言いながら、先ほどバッグにしまいこんだ槍を取り出すと、長くして見せる。  「おっと、どうした。」  目の前で武器に変化し、今にもそれが振り下ろされてもおかしくないような位置にあるため、驚きを隠せない。  「槍の調子が悪い。修理に回してもらえるか?伸び縮みする時に、一瞬歪みがある。不愉快なんだ。」  再び30cmくらいの長さに畳んで、手渡す。  「わかった。整備の方に伝える。」  やりとりを済ませると男は通路を通り抜けていく  全く色の違う黄色をベースにした、半透明のすりガラス状の自動ドアの前にたつ。ドアの向こう側も黄色をベースにした空間であることが窺い知れた。  自動ドアの上に掲げられた看板には「居住区」と書かれている。  ずっと先までとても幅広く長い廊下が続き、左右に扉がいくつも並んでいた。どこまで続いているか、ここからはわからない。  巨大なホテルかマンションの中に来た、とでもいえば良いだろうか。  男はしばらく歩くと、ある一室のドアの前で立ち止まる。  IDキーを差し込んで扉を開く。  中にはソファーに腰をかけて本を読む女性の姿。  「ただいま」  男は声を✖️。  「おかえり!桐奈!!待ちくたびれたよっ!!」  遠くからさおりの姿。読んでいた書籍をテーブルの上に置くと、ソファーの上から、笑顔で桐奈を呼んだ。  セミロングの髪が揺れた。ピンク色のロングセーター。  スリッパを履き直すと、走って桐奈のもとに走って抱きついた。  桐奈はしっかりと抱きしめた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!