花、震える

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 リバーシは僕の圧勝。十戦やって十勝だ。 「うーむ……。こんなことならば兵法でも学ぶべきだったか……」 「兵法って何?」 「戦の教科書みたいなものだ。さて、もう暮れてきた。優吾早く帰れよ。私も帰る」  桜はニッと笑うとフッと消えた。微かに残る桜の香りを嗅ぎながらリバーシをランドセルにしまう。  うちに帰ってどこに行ってたの? と毎日のように聞かれるけど、神社って言うとお母さんもあまり強く言わない。 「優吾は信心深いね」  そう言われるけど神様目当てじゃないのに信心深いも何もないよね。  次の日も次の日も僕は放課後に桜のもとに向かう。それはもしかしたら予感めいた何かだったのかも知れない。  三月。学校はもうすぐ春休みに入るけど、あと少し頑張らないといけない。相変わらず桜と遊んだりお喋りをしたりしていた。ただ三月に入ってから目に見えて桜の元気はなくなっていた。 「桜、最近どうしたの? 僕と遊ぶのつまらなくなくなった?」 「そんな訳なかろう」  今日は将棋の勝負。お父さんが学生の頃にコンビニで買った紙の盤のものだ。  桜は力なく笑う。 「心配だよ……。桜が何者かは分からないけど元気がないなら明日は控えようか?」 「いや……来てくれ」  桜は空を見上げてから駒を進める。 「王手飛車取り」 「また負けた!」  桜は将棋は強い。囲碁とかも打てるらしいけど、囲碁のルールは僕が知らない。 「将棋は駄目だなぁ」 「ふふ。……なあ優吾、お主は友に危険が迫っていたら助けるべきだと思うか?」 「当たり前じゃん。友達、家族、恋人、大切な人を助けるのに何を躊躇うのさ?」 「うん。そうか。そうだな。さて今日はもう帰れ。明日に備えてな」 「明日?」  それに答えず桜はフワッと消える。桜の残り香が鼻をくすぐる。 「変な桜」  将棋をしまって帰宅して、当たり前に宿題をやって夕飯を食べてお風呂に入って次の日は当たり前に来た。桜が何を言いたかったのか、僕は今日知ることになった。
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