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「それじゃ友梨はこっちの棚でー、葵はその隣ね」
高倉さんに指示を受けながら、棚に荷物を置いた。教科書の入ったリュックと防具袋を棚に置く。
「防具はそのまま武道場に持ってきな」
と、追加で指示が入る。私はわかりましたと答え、葵は小さくうなずいた。
「二人は今日はどれくらいまで稽古する?」
呼びかけられて光枝さんの方を振り返ると目をきらきらさせていた。
「そうですね……とりあえず基本の打ち込みはやっていきます」
ちょっぴり控えめに私はそう言った。本当は地稽古とか、かかり稽古などの激しい稽古も受けていくつもりだったが、最初からがっつくのもどうかと思ったからだ。
「そうだよな、ブランクもあるだろうしな」
高倉さんが私の返事に相槌を打ち、葵は?と自然に聞いた。
「普段通りの稽古で大丈夫です」
葵は着替えながら淡々と言った。それを聞いてええ、と小さく声を出したのは光枝さんだった。高倉さんが怪我だけは気を付けなよ。と心配そうに言った。葵の発言を聞いて熱意で負けたと思った。本当は葵と同じように激しい稽古だってしたかったのに。喉がきゅっと閉まる感覚がした。
「私も最後まで残りたいです」
と、言いかけたがきゅっとしまった喉から声が出ない。怪我が怖いとか、そんな言い訳ばかりが頭をよぎる。
「あの……。二年生の先輩たちって……」
ごにょごにょとした頼りないトーンでしか言葉が出なかった。仲があんまりよくないんですか?とはっきり言うのも変だとは思いつつもどう聞いていいのかわからなかった。
「ああ」
と小さく高倉さんが答えるとそのまま続けた。
「あの子たちはあんまり剣道が好きじゃないみたいでね」
目線を伏せながら高倉さんは床に言葉を落とした。
「そうね、美咲はガッツはあるんだけど」
光枝さんがそう付け加えると、一呼吸おいて
「実力がね」
と言った。瞳は暗くて鈍い色をしていた。今まで見たことのないような目をしていたから私は思わずどきりとした。
「だからね、二人には期待してるよ」
そう言いながら光枝さんはいつもと同じように屈託のない笑顔に戻った。私は曖昧に返事をすることしかできなかった。着替え終わった葵は否定も肯定もせずにただ光枝さんをじっと見つめつけていた。同じく着替え終わった私は久しぶりの稽古に胸を高ぶらせるのと同時に、先輩たちの無自覚の圧を抱えながら武道場に向かった。
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