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第5話 ギフト 後編
「どうすればいいんだ!
これでは、このまま撃ち殺されるのを待つだけじゃないか!?」
……!待てよ、撃たれる?
ヒヅルは"あること"に気づいた。
「逆に考えると、近づけば勝機はあるかもしれない」
じっと敵を観察する。
1つ、装甲に傷がある。
基地に配備された兵器群の攻撃は、決定打になっていない証拠だ。
つまり、やられた味方の武器を拾っても全くの無意味。
2つ、まず敵は常に密着している。
おそらく、随伴行動により隊列を組んでいる。
後方の機体の乗組員は、経験が浅くとっさの判断は難しい可能性がある。
つまり、それならば……!
突然、ヒヅルは座りだすと土を掴んだ。
そして、手前のゴブが照準を合わせたその時に……掴んだ土塊をアンダースローで思い切り投げた。
「そんな目くらまし!食らうかよ!這いつくばれ!
足をもがれて無力に悶える虫けらのようになあ!」
敵は目眩しにも怯むことなく銃を向け、真っ直ぐヒヅルを狙って一撃で仕留めに来る。
しかし次の瞬間。
G-01はヒヅルの突進により、地面に伏していた。
「な、何!!まさか、たった数秒の視界遮断を信じて突っ込んできたのか!」
「G-01!!!」
視界が遮られるということは、次の判断が遅れることを意味している。
相手は必ず着弾成否の確認行動をするはずだ。
ヒヅルは、その『判断の遅れ』を誘発した上で見逃さなかった。
射線軸から半身をずらしつつ、敵のいる位置へ突進すれば、確実に回避行動を行えない敵に激突する。
同時に装甲の軽いヒヅル機の突進では、ダメージは少ない可能性もあった。
だが、ヒヅルは見逃さなかった。
猫背の姿勢、フライトユニット。
そこへ真正面からの強い衝撃。
そして、姿勢制御の3つの構成要素『視界、中枢神経、筋肉』。
このうちの一つでも不具合が生まれれば……?
ヒヅルの想定通りに倒れ込む!
「やはり思った通りだ!
歩行のキーのひとつ『視界』を遮られた上、重心バランスを崩される。
これでは人間でも反射的に姿勢を保持するのは……精一杯!
そしてもう一機は!」
「貴様!動くなあああ!」
「やはり!数瞬だけ遅れているッ!」
想像通り敵機の相方は、突然の出来事への対応が一歩遅い。
銃を構えて撃つ前に、ヒヅルの回し蹴りが腕に直撃した。
衝撃により未熟な小鬼は地面に倒れこみ、徹甲弾ライフルがヒヅルの足元に落ちる。
一瞬の判断の遅れを、"眼"で逃さず捉えたヒヅルの才覚が接近戦を制したのだ。
「大人しく俺たちの功績になりやがれ!」
「まだ動くかあああ!」
手慣れている方が地面に伏しつつも、徹甲弾ライフルをヒヅルに撃ち込もうとしていた。
が、その瞬間的な動きも捉えて銃を蹴る。
重心が曲がる鈍い音を立てながら、ライフルは湾に沈んだ。
「あとは、持つ!そして、撃つ!」
足元の銃を拾い撃ち込もうとする……が。
「なっ、残り一発……。敵にはまだ打突武器がある、確実に
”一発で2匹も処理しなければならない”のか!」
ここまでの作戦は、確かに完璧だった。
しかし、敵からの贈り物が粗末すぎるじゃあないか!
絶望が、じわじわと侵食する。
「動きが止まったな!終わりにしてやる!」
G-02の機体が、肩からビームセイバーを抜き、KN-630101Aに振るった。
今度は、ヒヅルの判断が一歩遅れてしまっていた。
咄嗟に避けるものの左脛部にかする。
相手には近接武器もある。
一方を仕留めても、切り捨てられるのは確実である。
同じ手が二度も通用する保証はない。
「どうすればいい、どうすれば!」
ヒヅルはハッとした。単独飛行可能……。
空を見上げ太陽の方角を確認すると、ヒヅルは一気に飛行した。
「G-02!敵が空へ逃亡したぞ!逃がすな、絶対に!」
「しかし新型は太陽の方角へ飛んでいます!」
「我々の目視を難しくしているのか!小賢しい!
スクリーンの熱源反応で位置を補足するんだ!」
ヒヅルの行動の意図は、幸いバレてはいない。
太陽に向かって一直線にヒヅルは飛ぶ。
地を踏みしめていたその体は、天を目指して空を駆けている。
「確かに、貴様の飛行能力は我々以上だ。
だが高度になればなるほど、重力から逃れるためのパワーが必要!
飛行能力は上回っていても、いずれは我々の射程圏内だ!」
「距離が縮まっています!俺たちの勝ちだ!」
直下は既に海。
ビームセイバーの切っ先がヒヅルに近づく。
ヒヅルは急に太陽を背に受けて。
海面に向けて機体を反転させる。
そのままブースターを一瞬全力でふかした後に、今度は自由落下で海面へ急降下する。
「落ちていくぞ!追いかけろ!」
重力のなすがまま落ちるヒヅルを追い、2機のゴブが襲いかかる。
「やはり、僕を追っかけてきた」
目に光が宿る。
彼の眼は、ある一瞬を捉えるために、鋭く視ている。
「”敵の狙いは最新機の可能性があった”
“2機のうち、片方はもう一方を追従する”」
「今度は俺たちが太陽を背にしている!
貴様の方が視界不良!立場逆転だな!」
落下するヒヅルにゴブ達が真っ直ぐと向かってくる。
「僕の真の狙いは、『こっち』だ!」
剣を振りかぶり、ヒヅルに襲いかかる二機の子鬼。
「これで」
徹甲弾ライフルを、ヒヅルはゆっくりと空に向けて構える。
「僕の」
2つの機影が重なった。
「勝ちだ!」
緑の機体を銃弾が撃ち貫く。徹甲弾はその貫通力で2機の装甲を穿った。
手前の機体は胸部に命中し、奥の追従した機体の腰部まで見事に捉えていた。
「僕を追いかけてくると、必ず片方の機体はやや反応誤差を生みつつ追従する。
そうなれば必ず3次元的な動きを求められる空中でも、直線的な動きにならざるをえない。
隊列の動きが、より単調になった瞬間であれば!
貫通弾がたとえ一発でも、まとめて撃ち落とせるスキが生じる!
空に追いかけてきた時点で、既に勝負は決まっていたんだ」
2つの機影が煙を上げ爆発する。
爆発の向こうには、太陽がヒヅルの初陣を祝福するかのように輝いていた。
もし今日という日が雨ならば、敵はヒヅルの狙いに気づいたかもしれない。
そもそも、ヒヅルはこの賭けに出る発想が生まれなかったかもしれない。
太陽が出ていたからこそ、辛くも勝利できたのだ。
「太陽……そうだ、聞いたことがある。『アマテラス』という太陽の女神の話を」
ヒヅルが太陽に手を伸ばす。
ありがとう、女神様。
再びブースターをふかし、海上へ軟着陸をする。
海へ着陸するその姿は、まるで天から地へ神が天降ったようであった。
______。
この一連の流れを遠くから見つめる人影があった。
「まだ試作段階の太極図システムであそこまで動けるとはね。
その機体、君の『眼』を活かす最高のギフトになりそうで僕は嬉しいよ」
シキは、呟くとそっと微笑んだのであった。
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