Chapter1 日出る国の少年

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第8話 しろがねゐろの影 「日の本ではオーマガトキには一人で出歩かない、って聞いたが。 フン、あんたは日の本のヒト族ではないのか? あぁ悪い。ただの怖いもの知らずか」 夕闇の中でも輝く銀髪を揺らしながら、男はゆっくりと歩きながら近づいてくる。 ヒヅルは直感的に感じた。この男はやばい、何かやばい。 「あんたは、何者だ」 「人に聞く前に自分が名乗ったらどうだ、と言いたいが。 強いて言うなら」 一呼吸おいて彼は言った。 「アンタの敵だ」 その言葉を放つと同時に男はヒヅルに向かって一直線に向かってきた。 やはり帝国兵士! 僕の倒すべき復讐の相手!! ヒヅルは即座に左へと回避を行えるよう構える。 低い位置からアッパーが飛んでくる瞬間に想定通りに左回避を行う。 だが、避けたのもつかの間、左腕に衝撃を受けた。 「敵の死角に入りながら、反撃の一手を考えるその動きのクセ。 お前がさっきの赤白のフレームスーツのパイロットだな?」 銀髪の兵士は挙動を完全に見切っていた。 左手に隠し持っていた伸縮性の鞭を振り、既にヒヅルの左腕に一撃を与えていたのだ。 「……ッッ!!」 痛みに歯を食いしばり必死に思考を巡らす。 なぜコイツは僕の動きを知っているんだ? フレームスーツとはなんだ? 人型兵器のことを言っているのか? 「『なぜ動きが読まれたのか』を考えているな? アッハハ、答えは至極当然。 さっきの戦闘を偵察させてもらっていたからさ。 実に素晴らしい戦いだったよ!! 姿勢制御を逆手に取った戦法、パイロットの思考のクセを即座に理解した撃墜方法」 銀髪の兵士は饒舌に語っている。 今しかない! ヒヅルは鞭につかまれた左手を振りほどくために、後ろにぐいっと思い切り手を引っ張りながら、敵に向かって突進した。 「うわッ!」 急に引っ張られたことで兵士は姿勢を崩す。 その間に顔に向けて拳を打ち込めば……! 「なぁーんて、ね」 しかしその動きも目の前の青年には読まれていた。 体制を崩したように見せたのも、誘うための罠だった。 前のめりに見える姿勢から放たれた拳は、ヒヅルの腹を捉えていた。 「ガッ……グッッ……!」 腹に手を当て崩れ落ち、石畳の上に両膝をつくことが精一杯であった。 「そんな手が俺に通用するって? 大間違いだ。 大体、お前の戦略の思考がワンパターン過ぎる。 本当に最新気鋭の機体を与えられたエースなのか? 弱い、弱過ぎる。戦略も! 戦術も!!  そして戦闘技能も!!!」 そうヒヅルに言い放つなり、顔面を踏みつけてきた。 土と石の屈辱的な匂いが冷たくヒヅルの鼻腔へ入り込む。 「チックショウ……!」 青年は胸元から携行銃を取り出してヒヅルの頭に突きつけた。 「お前をここで始末することは戦略的には最適解だ。 基地をぶっ潰せる、戦力を削げる、正しい判断だ」 やられるッ! 咄嗟にヒヅルは目をつぶる。 …………。しかし引き金が引かれることがない。 一体どうしたのだろうか。 「だが。貴様は機体はともかくパイロットとしては無力な雑魚。 1人殺したところで、俺の力の証明にはならない……。 今のお前では俺の力を誇示するには値しない」 彼は銃をしまいながら立ち上がると、ヒヅルに蹴りを入れた。 激しい衝撃と痛みが腹部に打ちつけられる。 「さっき俺の名を知りたがっていたな。 教えてやろう、俺の名はエムル。 新型のパイロット、貴様の名も教えてもらおうか。 あぁ、すまない。喋るのも精一杯か」 エムルの皮肉をこめた言葉とにやつきがヒヅルにかけられる。 「ヒヅル……だ……ガハッ!」 腹部を蹴られた影響で、呼吸をするたび激しく胴体が痛む。 「ヒヅル、か。 今回は命を預けておく、とするよ。 あの紅白のフレームスーツ。最新機に乗った九重のエースとしての君を完膚なきまでに討ち取ることで、俺の力と働きが証明される! また戦場で会おう、ヒヅル。 もっと強くなった君をバラバラにできるのが楽しみだ」 エムルはそう言い残すのみであった。 (どんな奴がと思ったが……俺には遠く及ばないな。 だが、あの時の機体操作と戦術。 奴は必ずもっと強くなる。 あいつを倒せば……お父様も俺を見てくれるはずだ!) 神社の石段をコツコツと靴音を立てながらエムルは神社を後にする。 足音が遠ざかっていく音がこだまする中、ヒヅルの意識が神社を覆う夕闇の中へ落ちていくのだった。
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